これまでの学習で,先物為替予約及び通貨オプションを利用したときの損益がどのようになるかが理解できたと思います.では,どちらの方法を用いて為替の変動によるリスクに対応すべきなのでしょうか.次のような為替リスクに直面している輸出企業にとっての意思決定問題を考えてみましょう.
現在のスポット・レートは1ドル=100円とし,円高(ドル安,1ドル=95円)は確率0.5で,円安(ドル高,1ドル=110円)も確率0.5で起こると予想しているとしましょう.こうした「為替リスク」への対処として,次の行動が考えらます.
注意:
為替先物の価格は,現在の為替レート以外に,円金利とドル金利にも依存します.現在のように,ドル金利の方が円金利よりも高い場合には,為替先物のレートは現在のレートよりも高くなりますが,ここでは,ドル金利と円金利が同じ水準であると仮定しています.
この意思決定問題のデシジョン・ツリーは次のようになります.
次のような「通貨オプション」を選んだとしましょう.
ドル・プット・オプション
ドル・プット・オプションを1000万ドル分購入すると,オプション購入費用=2×1000万=\2000(万円)であるので,3ヶ月先に円高になった場合と,円安になった場合に最終的に得られ円建てでの資産額は以下のように計算されます. 円高(1ドル=95円)になった場合,ドル・プット・オプションを行使するので,$1000万×100=10(億円)の収益を得ます.したがって,トータルで,10-0.2=9.8億円 が最終的に得られる円建てでの資産額になります. 円安(1ドル=110円)になった場合は,ドル・プット・オプションを放棄し,受け取った1000万ドルを市場で売却して,$1000(万)×110=11億円を得ます.したがって,トータルで,11-0.2=10.8億円 が最終的に得られる円建てでの資産額となります. 「円高」,「円安」になる確率は0.5と予想しているので,円建てでの最終的資産の期待値は
次に「先物為替予約」を選んだ場合を考えてみましょう.すると,将来1000万ドルを受け取ることが確実で,しかも1ドル=100円で売却することが出来るので,その期待値は 10億 となり,その分散及び標準偏差は0となります.「リスクの保有」を選んだ場合を考えます.3ヶ月先に1000万ドル受け取ったら,そのときの直物相場で,それを円に転換するので,最終的資産の期待値は
それぞれの行動によって得られる円建てでの最終的資産の期待値と標準偏差は次の表6.1のようにまとめられます.
一回限りの取引の場合は,期待値・分散原理では「為替予約」,ミニ・マックス原理でも「為替予約」を選ぶべきです.長期的に何度も同様の取引を行う場合は,期待値の額を平均的に得られる(大数の法則より)ので,期待値のみを比較すると,「通貨オプション」を選ぶべきです.
現実には,輸出入を行わなければならない企業は,複数の金融資産を用いて為替リスクをヘッジしています.例えば,次のように,金融資産を分散して用いる場合を考えてみましょう.
このとき,円高(1ドル=95円)なれば,「先物為替予約」から最終的資産の期待値は5億円となります.「ドル・プット・オプション(オプション料1000万円)」から,この場合オプションを行使するので, $500万×100 = 5億円 の収益を得ます.したがって,トータルで,4.9億円の利益となります.一方,円安(1ドル=110円)になれば,「先物為替予約」から最終的資産の期待値は5億円となり,「ドル・プット・オプション(オプション料1000万円)」は放棄されるので, $500万×110 = 5.5億円 を得ます.したがって,トータルで,5.4億円の利益となります.このようにリスクを分散させたときの期待値は
期待値 - 分散 = 10.15 - 0.25 = 9.9 となります.
リスクを次のように更に分散させた場合を考えてみましょう.
将来,円高(1ドル=95円)になれば,「リスクの保有」から,$200万×95=1.9億円を,「先物為替予約」から,$400万×100=4億円を得,「ドル・プット・オプション」から,このときオプションを行使するので, $400万×100 = 4億円の収益 を得ます.2×$400万=800万円のオプション料がかかっているので,トータルで,3.92億円となります. 円安(1ドル110円)になった場合,「リスクの保有」から,$200万×110=2.2億円,「先物為替予約」から,$400万×100=4億円を得,「ドル・プット・オプション」から,このときオプションを放棄するので,$400万×110 = 4.4億円の収益 を得,2×$400万=800万円のオプション料がかかっているので,トータルで,4.32億円となります.このリスク分散による最終的資産の期待値は
期待値 - 標準偏差 = 10.17 - 0.35 = 9.82 となります.注意:
「通貨オプション」に全額をつぎ込む場合と比べ,最終的資産の期待値は低下しているが,標準偏差(リスク)も低下している.
これまでの例では,将来円高になる確率と円安になる確率は半々としてきましたが,将来円安が進むと予想する場合,円安となる予想確率が大きくなります(例えば2/3).このときの最終的資産の期待値もこれまでと同様に計算され,
期待値 - 標準偏差 = 10.29 - 0.33 = 9.96 一般的に,トヨタなどの輸出企業は,将来円高が進むと予想しているならば,先物為替予約の比率を大きくし,将来円安が進むと予想している場合は,通貨オプション,リスクの保有の比率を大きくすべきです.また,日本マクドナルドのような輸入企業は,将来円高が進むと予想している場合は,通貨オプション,リスクの保有の比率を大きくし,将来円安が進むと予想している場合は,先物為替予約の比率を大きくすべきです. |