modern american economy
コラム:総需要・総供給分析
担当:甲南大学 稲田義久
スタグフレーションの発生を理解するためには、総需要・総供給曲線分析が便利です。下図おいて、横軸はGDPで縦軸は物価水準です。総需要曲線はIS-LM分析から導出されます。すなわち、財市場と貨幣市場が同時に均衡する場合のGDPと物価水準との関係を示しており、右下がりの傾きとなっています。一方、総供給曲線は企業の利潤極大が満たされる場合の生産水準(GDP)と物価水準の関係を示しており、右上がりの傾きとなっています。
したがって、総需要曲線と総供給曲線の交点は、企業や消費者にとってそれぞれ好ましい状態であり、安定的な関係にあります。
石油危機はこの理論フレームワークでは、総供給曲線の左上へのシフトに相当します。初期の均衡点を(Y0, P0)とすると、総需要曲線に変化がない場合、石油危機後の経済の新しい均衡点は(Y1, P1)に移行します。ここでは生産水準は低下し、物価水準が上昇しています。すなわち、スタグフレーションの状況が発生しています。
次に、政府はこの状況を脱するために積極的な財政政策を実施したとします。この時、総需要曲線は右上にシフトします。均衡点は(Y2, P2)に移動して、財政政策が実施されない場合と比較すると、生産水準は上昇しますが、物価水準はさらに加速します。結局、初期の均衡点(Y0, P0)と比較すると、生産水準は低下して、物価水準は大きく上昇しています。実際、第2次石油危機後の1980年を見ると、実質GDPは前年比-0.2%と減少幅は小幅ですが、インフレ率は+13.5%と大幅に加速しています。このように、総需要・総供給曲線のフレームワークを用いればスタグフレーションをうまく説明できます。
図3-5 総需要・総供給線