modern american economy
コラム:ラッファー・カーブ
担当:甲南大学 稲田義久
サプライ・サイド経済学といえば、ジャーナリズムにおいてはラッファー(A. Laffer)教授の名前と同一視されているが、これは誤りです。実際の理論的な貢献は、アカデミックなサプライ・サイダーによってなされたもので、その中心はハーバード大学のフェルドシュタイン教授でした。ラッファーたちのラジカルなサプライ・サイダーとともに2つの背景の異なるグループが経済政策に関して発言権を持っていたといわれています。
ラジカルなサプライ・サイダーの代表は、ラッファー南カリフォルニア大学教授やケンプ下院議員ですが、彼らの議論を象徴する1つのエピソードがあります。それは1974年ワシントンのレストランでラッファーがナプキンに描いた「ラッファー・カーブ」のアイデアが出発点であるといわれています。
彼は横軸に税率を縦軸に税収をとった図を示しました(図4-5 ラッファー・カーブ を参照)。ここには、一定の税率までは税率が上昇すれば税収が上昇する(ノーマルな領域)という正の勾配を持つカーブが描かれているが、その後に、ある高さを超えるとむしろ税収が減少する(禁止的な領域)負の勾配をカーブが描かれていました(下図の黄色の領域)。
この意味するところは、もしアメリカ経済が禁止的な領域にあるならば、税収を増加させるためにはむしろ税率を低下させる必要があるのです。この主張は、当時のアメリカ人の心情(税率が高くなると人々の労働意欲をそぐ)に鋭く訴えるところがありました。このアイデアは非常に魅力的な仮説でしたが、現実に妥当していることを示すには統計的な根拠に乏しかったのです。
このようにラジカル派はジャーナリスティクに派手に目立ちましたが、理論的にも実証的にもサプライ・サイド経済学を支えたのはアカデミックなサプライ・サイダーといえるでしょう。
図4-5 ラッファー・カーブ