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modern american economy
コラム:増税はごめんだ(No New Tax)
担当:甲南大学 稲田義久


 筆者はたまたまスタンフォード大学での研究会(1988年11月)に参加した時期に大統領の選挙戦に遭遇しました。選挙キャンペーンはアメリカの主要都市を巡って行われますが、サンフランシスコで大統領選の1つのイベントを目撃しました。

 レーガンの大統領選のときのスローガンは、すでに見たように「皆さんの生活は4年前と比べてよくなりましたか」でした。しかし、ブッシュ候補から共和党サポーターに向かってこのような威勢のよいスローガンは今回聞かれませんでした。というのも、巨額の財政赤字や貿易赤字の問題を抱えていたため、減税などに言及する余裕はなかったのです。

 共和党ブッシュ・クエールのコンビ対民主党デュカキス・ベンッエンのコンビにより大統領選が戦われたのですが、選挙戦は実に盛り上がりに欠けたものでした。

 というのも当時アメリカのおかれている状況は、誰が大統領に選ばれても選挙民にとって不人気な政策しかとりようのないものでした。このときアメリカにとって最も必要とされる政策は財政赤字の削減であり、選択肢は歳出を削減するか増税を打ち出すかまたは両方の組み合わせしかないためでした。

 ブッシュ候補は選挙キャンペーン中、不人気な政策をとるとの言質を与えないように、慎重な言い回しに終始しました。彼は「私の唇を読んでくれ(Read my lip)」とか「税金を引き上げるつもりはない(No new tax)」といったような消極的なものに終始したのである。筆者には何の感動もなく、サポーター達の「増税はごめんだ(No new tax)」という連呼のみが耳に残っていました。

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