← 戻る
modern chinese economy
コラム:文化大革命−消された孫悟空
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


 中国では、文化大革命は間違いだったと公式に総括されていますが、未だに本格的なメスを入れることがタブーとされています。大雄毛沢東が指導したからだとか、今の各層幹部は何らかの係わりをもっており、つつけば体制がガタガタになるからだとも言われています。国民が何派にも分かれて内戦状態になったのですから、死者は公表された数字30万人どころではなかったはずです。ケ小平の息子は身体障害者で中国の身体障害者団体の会長ですが、彼は文化大革命のときに紅衛兵によってビルから突き落とされたためそうなったという話は有名です。永続革命、権力闘争、社会主義の諸矛盾の爆発、独裁者の横暴、そのどれも真実の側面ではありましょうが、文革はどれかひとつの要素には還元できません。現代世界史の謎中の謎といえるでしょう。

 さて、文化大革命の時期に孫悟空並みの活躍をしながら、今では忘却の彼方におかれているある若者のエピソードを取り上げてみましょう。その名を王振海といいます。北京出身で医学部を卒業しながら、辺地への就職(国家分配)を拒否したために臨時工として工場で働いていたとも、地主の家庭に生まれ、出身階層が「悪」かったために臨時工になったとも言われています。彼は1966年12月から翌年2月にかけて恐るべき指導者として登場しました。文化大革命は文芸批判、教育革命、紅衛兵運動、労働者の造反と拡大の一途をたどっていましたが、国家機関や党中枢には手がついていませんでした。ところが66年12月、突如として王振海率いる「紅色労働者造反総団」という過激・残虐この上ない全国組織が、先ず国家機関「労働部」(日本の厚生労働省にあたる)を襲撃したのです。

 かれらの言い分は、「公平・平等であるべき社会主義中国に、低賃金・無保障・無権利の多数の臨時工がいるのは何故だ」、「差別のもと結婚さえできないのは何故だ」、「国の基礎たる労働者階級を正規工と臨時工とに分裂させたのは誰だ」、「中国に資本主義を復活させようとする実権派(劉少奇・ケ小平)ではないか」、というわけです。毛沢東夫人江青はじめ文革派指導者がこれに飛びついたのは言うまでもありません。物心両面で最大限彼らを援助しました。「紅色労働者造反総団」は「労働部」や党公認の労働組合「全国総工会」を占拠・閉鎖し、差別賃金の是正と遡及支払い、臨時工の正規工への切り替えを強要し、その交渉結果を綴ったビラを飛行機で全国に運び、瞬く間に全国闘争となりました。これがきっかけとなって、中央集権的な国家権力構造への果敢な挑戦があらゆる分野に広がり、文化大革命は血なまぐさい権力闘争の局面に突入していったのです。

 これは一種の革命かも知れませんね。しかし、さすがに毛沢東と言ってもよいのですが、この直後67年2月に、突如、王振海は「反革命分子」として逮捕され、即刻処刑されてしまったのです。「紅色労働者造反総団」にならって結成され、傍若無人の振る舞いに出ていた、「農村に下放されていた青年の造反組織」、「辺境地域の屯田兵造反組織」、有象無象の造反組織はいずれも「反革命組織」として解散させられ、指導者は根こそぎ逮捕・投獄されました。毛沢東と文革派の意図に沿う限りはチヤホヤされ、利用されつくされるが、それが終わればお役目御免の典型だといえるでしょう。「さすがに毛沢東」と言いましたのは、彼は「永続革命」という言葉を華麗に駆使したのだけれども、中国の体制を根底から覆す気など毛頭なく、本気でそれを志向する輩は正に「反革命分子」に過ぎず、これ以上はヤバイと直感すると即刻抹殺してしまったからです。

▲ページのトップ
← 戻る