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modern chinese economy
コラム:双軌制
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


 言葉ではなかなか理解し難いので、一つの理論枠組みを使って「双軌制」を整理しておきましょう。そのため特定の製品市場(財貨・サービス、労働、資金、外国為替等なんでもよい)を考えます。図6-9の右下がりのDD線は需要線、右上がりのSS線は国有企業等の計画部門の供給線です。そして当初、この製品供給は国家によって独占され、国家の計画する生産量を図のOQ0、政府の公定価格を図のOP0とします。このとき図の台形P0ABCの面積に相当するレントが国家に帰属します。例えば図のOAを政府販売価格、P0Aを工商税と考えれば、この部分は政府税収になります。勿論、計画部門の利潤(三角形SP0Cの面積で表されます)は計画期では国家に上納されていました。

図6-9 双軌制の概念的整理
図6-9 双軌制の概念的整理

 さて、以上を出発点としてこの製品の需要・供給を非計画部門、例えば郷鎮企業に開放したとしましょう。ただしその参入は計画部門が満たした需要以外の部分(図ではBDで表される需要部分)のみとします。話を簡単化するため、非計画部門の供給線をC点から出発するCSの部分と仮定すると、市場部門の需給は点Eでバランスするため、市場価格は図のP1に決まります。また市場部門の生産・販売量は図のQ0Q1になります。

 この参入自由化により、市場部門は図の三角形FECの面積に相当する利潤を、また消費者は図の三角形BEFの面積に相当する消費者余剰増加をそれぞれ享受できます。そして仮定により計画部門は市場部門と並存するが(双軌制)、経済全体としての余剰は三角形BCEの面積だけ増加しています。これが「増量」部分です。このように双軌制では計画部門の既得権益が維持されたまま経済全体としてのパイが拡大するので、誰も傷つません。既に説明した「経済特区」や貿易制度改革も、原理的にはこの双軌制の延長線上にあります。ですから既得権益等の分配面での影響により経済効率化政策が反対圧力にさらされたとき、このような双軌制が構造改革を前進させるための一つの有効な方法になります。昨今盛んに議論されている日本の特区構想は、実はこの中国の実践から学んだものです。
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