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modern chinese economy
コラム:中国の政府間財政調整の後退
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


 中央政府を介して、地方政府間の財政収入・支出を再調整することを「政府間財政調整」と言います。例えば日本で言えば、東京都等の比較的豊かな地域から所得税等で税収を吸い上げ、地方交付税・国庫支出金等により相対的に貧しい地方に財源を再配分する仕組みがそれです。この点に関連して、改革・開放以後、特に財政請負制が本格化した1985年以後、中国の政府間財政調整が大幅に後退しているという事実を指摘しておきます。

 図6-10は、計画期において最も豊かであった北京・天津・上海の三直轄都市、および遼寧・黒龍江省の財政移転規模と、三線建設の対象地域となった四川・貴州・雲南・陜西・甘粛の5省の財政移転受取額(対GDP比、財・サービスの純輸出で代理)の推移を示したものです。なお、上海だけ別個に示されています。この図によると、計画期の富裕地域であった三直轄都市ならびに東北重工業地域からの資源移転はGDPの40%近い水準となっており、中央政府がいかにこれら地域から多くの資源を吸い取っていたかが分かります。特に上海は中国の「カネのなる木」であったようで、実にそのGDPの60%に相当する資源が市外に移転されていた事実には驚かされます。その地方政府が集めた資源が中央政府自体の支出を賄うだけでなく、その他の地域に再配分されており、特に三線建設期では対象となった5省だけでそのGDPの30%に相当する資源が移転されていました。このように計画の時代において、中国は中央政府主導による大規模な資源再配分を行っていたのです。

 しかし1985年からは、従来、吸い取られていた省・市からの資源移転は急激に減少し、特に上海のそれは非常に小さくなりました。換言すれば、完全とは言わないまでも、中国においていわば「独立採算制」の時代が到来したのです。

図6-10 地域間資源移転(対GDP比)
図6-10 地域間資源移転(対GDP比)
注)
東部5省・市は北京・天津・上海・遼寧・黒龍江、西部5省とは四川・貴州・雲南・陜西・甘粛。省間資源移転は財・サービス純輸出で代理した。マイナスは資源純受取を、プラスは純移出を表す。

資料)
国家統計局国民経済総合統計司編「新中国五十年統計資料匯編」1999年、国家統計局編「中国統計年鑑」1998-2002年。

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