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modern chinese economy
コラム:税収構造の国際比較
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


 発展途上国は一般に間接税への依存が高くなる傾向があります。一つに給与所得者が少ないこと、その結果として所得捕捉が難しいからです。中国もその例外ではなく、所得税の比重は非常に小さいのが現状です。第二に、土地は基本的に公有資産であり、ごく最近まで「私有財産」という概念が希薄でした。そのため固定資産税等の資産課税収入が皆無に近い状態です。第三に「遺産に対する課税(相続税)」という観念もあまりありません。こうした事情により、比較的徴税が容易な間接税依存とならざるをえないのです。

 次の表8-8は中国とOECD加盟国の税収構造を比較したものです。なお、正確には税収に社会保険料を含めるべきなのですが、中国では社会保障制度が未成熟ですので意図的に社会保険料を除きました。この表によると、中国の企業所得税は国際基準から判断してそれほど少ないわけではありませんが、逆に個人所得税が著しく少ないことが分かります。先進国では個人所得税が最も重要な財源なのです。

表8-8 税収構造の国際比較(1999年)
  対GDP比、%、1999年 租税収入に占める構成比、%
租税 個人所得税 法人所得税 個人所得税 個人・法人合計
中国 15.9 1.0 2.7 6.3 23.3
OECD平均 27.7 10.1 3.3 36.5 48.4
 韓国 19.5 3.7 2.1 18.9 29.7
 ギリシャ 25.6 5.3 3.2 20.5 33.1
 フランス 29.3 8.1 2.9 27.6 37.5
 イギリス 30.1 10.5 3.8 34.8 47.3
 イタリア 30.9 11.4 3.3 36.9 47.7
 ドイツ 22.9 9.4 1.8 41.3 49.1
 日本 16.4 4.8 3.4 29.4 50.0
 カナダ 33.0 14.5 3.7 44.1 55.5
 スウェーデン 39.0 18.6 3.2 47.6 55.7
 アメリカ 22.0 11.8 2.4 53.5 64.5
参考          
日本(1965) 14.3 4.0 4.1 27.7 56.1
韓国(1975) 15.1 1.3 1.3 8.6 17.6
注)税収は社会保険料を除く。カッコ内の数字は対象年次。所得税には住民税を含む。
資料)OECD, Revenue Statistics 1965-2000, OECD, 2001.

 もっとも中国とOECD加盟国を比較することは中国にとって酷であるかもしれません。そこで参考欄に1965年時点の日本、1975年時点の韓国を示しておきました。これによると現在の中国は1975年時点の韓国とさして変わらないこと、しかし日本は1965年時点で既に現在とあまり変わらない税収構造になっていたことが分かります。当時の日本では終戦後のシャープ勧告に従い、基本的に所得税を中心とした税体系が既にできあがっていました。そして所得税は国税、基本的に中央政府の収入となります。その税収は地方の財政事情を勘案して地方交付税・地方譲渡税・国庫支出金等の名目で再配分されていたのです。表8-9は日本の税収のうちの中央政府の取り分の割合と、こうした政府間財政調整を行った後の中央政府の取り分の推移です。日本の場合、税収の概ね6-7割を中央政府がとり、そのうち5割程度を地方政府に再配分していました。その結果、再配分後の中央政府の取り分は3割前後に低下しています。またこれが「成長と公平の両立」という難しい課題に対する日本流の解決方法だったのです。いずれにせよ、当面は難しいとしても中国の財政の課題の一つが個人所得税の徴税強化と中央政府財源化にあることは間違いないでしょう。

表8-9 日本の中央政府財政収入構成比(%)
単位 : %
年度 再配分前 再配分後
1950 75.2 45.9
1955 71.1 35.0
1960 70.8 39.5
1965 67.9 30.9
1970 67.5 33.7
1975 64.0 23.3
1980 64.1 23.1
1985 62.7 30.4
1990 65.2 37.0
1995 62.0 30.6
2000 59.7 27.1
注)再配分後とは中央政府から地方政府への税収移転(地方交付税・地方譲渡税・国庫支出金の合計から地方政府の国庫負担金を控除した額)を考慮した後の中央政府税収割合、再配分前はその移転前の中央政府税収割合。
資料)財務省財務省総合政策研究所編「財政金融統計月報:租税特集」612, 2003年4月。

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