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modern chinese economy
コラム:中国の貿易と海
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


 本文中で中国の外国貿易に果たす海の役割を強調しました。常識的なのですが、このコラムでは確認の意味で二つの事実を指摘しておきます。その第一は中国と国境を接する国は現在14ヶ国ありますが(abc順にアフガニスタン、ブータン、インド、カザキスタン、キルギスタン、ラオス、モンゴル。ミャンマー、北朝鮮、ネパール、パキスタン、ロシア、タジキスタン、ベトナム)、中国の総輸出額に占めるこれら14ヶ国向け輸出の割合は3.8%(2000年時点)しかなく、内陸部にとって非常に重要な「国境貿易」は、中国全体から見ればとるに足らない規模だということです。なお、これら陸続きで国境を接する国はすべてあまり豊かな国とは言えないことに注意して下さい。かつて中国の三大王朝の一つと言われた「唐(Tangと発音します)」の都は長安、現在の西安であり、古代の西周を始めとして関中(函谷関より西の地域)は秦、前漢の都が位置していた所です。現在は黄土高原の真っ只中、まったく砂漠化して痩せてしまいましたが、当時はまだ緑土が広がる農耕の盛んな土地柄でした。そして「シルク・ロード」という陸路が外国貿易の主要ルートでしたので、内陸部が中国の中心部でありえたのです。実際、三国志で有名な蜀の諸葛孔明が司馬懿(しばい)率いる魏と決戦を挑んだ「五丈原の戦い」もこの関中に位置しています(近頃は三国志ゲームが流行っているためか、子供たちもよく知っています)。

 しかし、大航海時代以降、貿易の軸は陸路から海路にシフトしました。そして現在は海路と空路が主力の遠隔運輸方法、またインターモダル輸送と言って、海・空と陸路を有機的に繋ぐ輸送システムが現代運輸システムの軸です。そのためどうしても豊かな国に繋がる「海と港のネットワークへのアクセス」が外国貿易拡大の要諦となります。

図10-8 中国の省・市別輸出と主要港までの距離(2001年)
図10-8 中国の省・市別輸出と主要港までの距離(2001年)
注) 縦軸は省・市別輸出金額(原産地ベース、対省・市GDP比、%)、横軸は省都から秦皇島、上海、香港への最短距離(greater circle distance)。いずれも対数変換した。
資料) 国家統計局編「中国統計年鑑」2002年、その他。

 図10-8は各省都から中国の三大港(河北省の秦皇島、上海、香港)への距離と省・市別輸出額(対GDP比)の関係を図示したものです。この図によると、明らかに主要港から遠い地域ほど外国貿易は小さくなっています。実際、中国の地域別貿易の7割はこの主要港への距離によって説明でき、しかも距離と貿易のマイナスの関係は外資系企業の行う貿易の方がより鮮明です。このように中国の外国貿易に関する第二の事実は「海と港のネットワークへのアクセスの決定的重要性」です。工業化を推し進めるには需要制約を外国貿易で補うことが最も簡単な方法ですので、その出口を確保することは経済発展の効率的な方法と言えるでしょう。またこれがアジアNIEsが身を持って実践してきたことでした。

 1975年の「四つの現代化」という後の改革・開放路線の基本的方向性を築いたのは周恩来首相でしたが、もう一つの業績である「西側の海の包囲網突破(対米関係の改善)」は中国の新しい発展戦略にとって決定的重要性を持っていました。文化大革命期に失脚した劉少奇に比べると経済畑ではあまり高い評価は得られていませんが、周恩来首相は国の方向性を定める政治的先見性を持っていたということでしょう。その意味で周恩来首相はおそらく中国史に燦然と光り輝く巨頭と言えます。

 いずれにしても中国と陸続きの国があまり豊かでないということ、そして海への出口が遠いという二つの地理的条件面で内陸部は不利になっていることが理解できたのではないでしょうか。

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