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modern chinese economy
コラム:国際収支の見方、外国為替市場介入
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


 このコラムでは国際収支の見方、および外国為替市場介入について説明します。まず国際収支とは、一定期間、例えば一年間において一国に主たる経済活動基盤を持つ個人・法人・政府(「居住者」と言います)とそうでない者(「非居住者」と言います)との間で行われたすべての取引を体系的に整理・記録したものと定義され、それはモノやサービスの取引に関わる経常取引と、お金の貸借に関わる資本取引の二つに区分されます。例えばモノやサービスの輸出入が経常取引であり、その輸出額から輸入額を引いた収支尻を「経常収支」と言います。これに対して株式や証券等の自国金融資産の輸出金額から外国からの金融資産輸入額を引いた収支尻を「資本収支」と言い、その合計が「総合収支」です。つまり

 経常収支+資本収支=総合収支

 という関係が成立します。そして収支尻がプラスであるとき「黒字」、マイナスであるとき「赤字」と表現します。資本取引の中身は雑多ですが、中国の関連で重要なのは、直接投資(経営権取得を目的とした出資や子会社への貸付)と証券投資・銀行ローン等です。つまり「資本収支=直接投資収支+証券等のその他資本収支」です。

 他方、お金の流れという観点から眺めると、輸出はお金の流入(受け取り)、輸入は流出(支払い)ですので、経常収支はモノやサービスの取引から生じたお金の純受取額を意味します。同様に、資本収支は金融資産取引から生じたお金の純受取額ですので、上の式の左辺は通貨当局(中国では人民銀行と考えて結構です)以外の個人・企業の国際取引から生じたお金の純受け取り額合計ということになります。なお、資本収支が黒字であるときお金が流入しているので「資本流入」、逆に赤字の場合「資本流出」と表現します。中国では経常収支は黒字、資本収支は赤字ですので、資本流出が発生していることになります。

 この受取額のほとんどは米ドルです。そのため総合収支が黒字ということは米ドルの売り、人民元の買いという取引を発生させます。この米ドルと人民元の交換が外国為替取引です。したがって総合収支が黒字であれば米ドルが売られ、人民元が買われるため、そのままではドルの値段、つまり為替レートが低下します。例えば1ドル=8.3元から1ドル=7元へのドルの値段の下落です。このとき人民元は米ドルに対して「切り上がった」と表現します。1元の値段が1/8.3ドルから1/7ドルへ上昇しているからです。また逆の場合、「切り下がった」と言います。日本ではこうした表現を使わず、円高・円安という表現が一般化していますが、それに対応させると切り上げとは人民元高、切り下げとは人民元安と言い換えてもよいでしょう。

 しかし、人民銀行は人民元の切り上げを異常に嫌います。例えばそれによって中国の輸出が減少する懸念があるからです。そのため人民銀行は総合収支に等しい米ドルを購入して、その代価として人民元を支払います。この操作を「外国為替市場介入」と言います。この外国為替市場介入が人民元の対米ドルレートを安定化させる基本的仕組みです。また介入によって取得された米ドル資金はアメリカや欧州の短期証券や預金で運用されます。この運用残高が「外貨準備」です。このように総合収支黒字は外貨準備の増加(赤字の場合は減少)に一致します。

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