human and environment
4-1. 環境ホルモンとは
- ヒトからみた環境 - 玉利 祐三
- 4-1-5. 環境中のダイオキシン
- 暖をとるために薪を燃やしても、自然の山火事でもダイオキシンがつくられると言われています。これは、木が約 0.2% の塩素を含み、これがダイオキシンをつくる成分になるからなのです。この自然発生的ダイオキシンは、次のような実験で証明されています。
ケイ酸塩(砂、岩石)にベンゼンと塩化鉄を混ぜて150℃に熱したらダイオキシンができるとのことです。この実験は、古代人が焚き火をするときに相当するもので、自然の山火事も含めて太古の昔からダイオキシンがつくられていたことになります(J. Emsley)。
また近年では、ゴミの焼却により容易にダイオキシンがつくられることが実験で証明されています。この実験では、段ボール片3kgに 200〜300 gのポリ塩化ビニールを加えて小型焼却炉で燃やしたところ、排煙中にダイオキシンが約 3000 pg発生したと報告されています(愛媛大学脇本忠明教授)。このように現在ではゴミ焼却により発生するダイオキシン、そして焼却灰中のダイオキシンが大きな社会問題となってきています。
ただし、極微量のダイオキシンが検出できるようになったのは分析機器が発達した最近のことです。ダイオキシンの検出感度は、1950年代では 0.1% レベル、1960年代で ppm (0.0001%つまり1万分の1パーセント:μg/g 濃度:マイクログラム)レベル、1970年代で ppb(千分の1 ppm: ng/g 濃度:ナノグラム)レベルそして1980年代ではさらに極微量の ppt(千分の1 ppb: pg/g 濃度:ピコグラム)レベルまで検知・検出できるように分析機器が開発されてきたのです。
そのため、南イングランドの150年前の土壌から 現在の濃度の約3分の1の30 ppt のダイオキシンが検出され、この頃でも既にダイオキシンつくられていたことが分かりました。また、日本でも約8000年前の堆積層からダイオキシンが検出されたとの報告もあります(J. Emsley)。
このようにダイオキシンは相当昔から自然界に存在(おそらく極微量)していたのでしょうが、現在ではその濃度が増加しているのは事実でしょう。
自然環境では、焼却炉等からの燃焼ガスにより人為的にダイオキシンが大気に放出され、それが下降して土壌そして農作物が汚染されます。あるいは流水(陸水、海水)を通してダイオキシンが魚に蓄積されることもあります。このような環境循環のなかで、ダイオキシンに汚染された農作物や魚をヒトが食物として摂取、あるいは汚染された大気そのものを呼吸を通して吸収することになります。
ヒトが摂取するダイオキシン量は、ダイオキシン評価委員会の試算によれば、穀物からは 0.2 pg /日、油脂、豆、果実等では数 pg /日、緑色野菜で 11 pg /日、乳製品、卵、肉類で 18 pg /日、魚介類で 105 pg /日であり、その結果、一日あたりのダイオキシン摂取量は 3.7 pg/kg体重/日と算定されました。この値は、前述の環境庁の安全指針の数値を下まわり、安全量と考えられています。しかし、ダイオキシンが前述の「環境ホルモン」として明確に作用するのであれば、この濃度レベルでも問題があるのかもしれません。これについては今後の調査を待たねばなりません。
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