human and environment
3-1. エアロゾルとは
- 環境汚染 -  松田 八束

 空気中に浮遊している微粒子には数多くの種類がある。例えば、飛散した砂塵、火力発電所からの排煙、光学的反応により生成した粒子、飛散した海水から生成した海塩粒子、そして水または氷粒子からなる大気中の雲などである。それらは、影響の度合いは大きく異なるが、視程や気候のみならず、われわれの健康や生活環境に少なからず影響を及ぼしている。

 エアロゾル(aerosol)とは「気体の媒質中に固体または液体が分散しているコロイド系」である。あるいは「気体とその気体中に浮遊する固体もしくは液体の粒子」である。煙霧質または煙霧体などとも呼ばれる。エアロゾルは、粒子およびそれらが浮遊している気体の2つからなる2相系であり、その中には、ダスト(粉塵)、フューム、スモーク(煙)、ミスト、霧、かすみ、スモッグなどのきわめて広い範囲の現象を含んでいる。エアロゾルという言葉は、「固体粒子が分散している安定な懸濁液」を意味するハイドロゾルという言葉からの類比により、1920年頃つくり出された。エアロゾルは、浮遊粒子状物質、エアロコロジオン系または分散系とも呼ばれる。エアロゾルという言葉は、一般的にはスプレーなどによってつくられたものに対して使われているが、科学用語としては、気体状物質中に粒子が分散している状態を表す言葉として広く用いられている。

 エアロゾルは表1. 1に示すように、粒子状物質の分散状態の一つにほかならない。表中に示した物質はすべて、2成分系であり、粒子の大きさと溶媒中の濃度に応じて特有の性質を示す。また、粒子の大きさや濃度に応じて安定度も大きく変化してくる。

 表1. 1 粒子の分散状態の分類
分散媒 分散粒子のタイプ
気体 液体 固体
気体 - 霧、ミスト、スプレー フューム、ダスト
液体 乳濁液(エマルジョン) 懸濁液、スラリー
個体 スポンジ ゲル 合金
早川 一也訳、ウイリアム C.ハインズ著
「エアロゾルテクノロジー」 井上書院(1985)


エアロゾルテクノロジーの必要性

 エアロゾルの性質を理解することは実用上非常に重要である。それによって水循環を説明する鍵として、大気中での雲形成のプロセスを理解することができる。エアロゾルの性状は、大気中の粒子状汚染物質の生成、移動、消滅に影響を及ぼす。職場や一般環境での粒子状汚染物質の測定および制御には、エアロゾルの性質に関する知識の応用が必要である。エアロゾルテクノロジーの産業への応用としては、噴霧乾燥製品の製造、顔料製造、殺虫剤製造などがある。肺に吸入された粒子の毒性は、その化学的性質のみではなく物理的な性状によっても異なってくるため、浮遊微粒子の危険性を正確に評価するには、エアロゾルの性質を理解する必要がある。また、この知識は逆に呼吸器疾患の治療において、治療用エアロゾルを的確に使用するためにも必要である。

 エアロゾルテクノロジー(aerosol technology)とは、エアロゾルの性状、挙動、および物理的原理についての研究を行うこと、ならびに、その知識をエアロゾルの測定と制御に応用することの両者を含んでいる。エアロゾル中の粒子状の部分は、質量、容積ともにエアロゾル全体に比べてほんの一部分を占めるにすぎない。粘性や密度といったエアロゾルの巨視的な特性は、清浄な空気のそれらに比べても、ごくわずかに異なっているだけである。そのため、エアロゾルの性質を研究するためには、微視的な視点に立たなければならない。このアプローチは、一つの粒子のみを取り上げ、その粒子に働く力や粒子の運動、また、分散媒としての気体や電磁放射線、その他の粒子との相互作用についての問題を取り扱うものである。

 今世紀初頭、エアロゾルは、観察できる物質の中で最も小さかったので、当時エアロゾルに関する研究は、物理学の最先端のものであった。原子物理学の出現によって、エアロゾルに対する関心は第二次世界大戦まで衰えていたが、第二次大戦時代にエアロゾルの軍事利用が進められた。戦後、特に1970年代になると、工業用クリーンルーム、バイオロジカルクリーンルーム、空気汚染に端を発した健康障害に対する関心の増大により、エアロゾルテクノロジーの重要性が急激に増大した。エアロゾルテクノロジーは、私達自身が生活環境に及ぼしている影響の度合い、およびその生活環境からわれわれが受けているインパクトを理解するうえで、重要な道具となっている。
夕焼け、雨、虹、静電捕集、カスケードインパクター、珪肺症、他家受粉などのきわめて多種多様な現象に影響を及ぼしていると考えられる物質は、単純なものではあり得ない。エアロゾルテクノロジーは、物理学・化学・物理化学・工学における成果をもとにしている。また、それは粉体工学で使われている手法や概念や用語を使用している。それは産業衛生、大気汚染制御、吸入剤毒物学、大気物理化学、放射線衛生学の分野に応用されている。
一般に、エアロゾルの計算においては、SI単位系よりcgs単位系のほうが使いやすいので、ここでは、cgs単位系を使用する。