human and environment
環境法制の整備状況
(『アジア環境白書2000/01』に所収予定) - 環境法・環境政策 - 大久保 規子
アジアの国々では,1992年の地球サミットの前後から,
まず,環境権に関しては,憲法に明記する国(例えば,フィリピン,韓国)が増えつつあり,最近では,タイの新憲法('97)にも明文規定が置かれた。また,インド,バングラディッシュ,ネパールなど南アジアの国々では,環境権は,判例により,生存権の付随的権利として認められている。 次に,多くの国で,環境に関する基本法が制定されている。最近では,モルジブ('93),バングラディシュ('95年),ネパール('97)等で環境保護法が成立し,インドネシアでは,新たな環境管理法('97)が制定された。また,パキスタンでは,環境保護令('97)が定められた。ただし,台湾では,環境保護法案が策定されているものの,未だ成立していない。 環境行政組織についてみると,一般に,省レベルの国家機関が設置されており,日本でも,環境庁が環境省へ格上げされることになった。国と地方の関係について言えば,日本,中国等では,条例による上乗せ・横だし規制が認められており,ベトナムでは,ハノイ市とホーチミン市において公害防止条例が制定されている。また,例えば,上海市では,国に先駆けて排出権取引制度が導入されている。 環境保全の手法に関しては,排出基準を設定し,その遵守を義務づけたり,開発行為の許認可制を採るのが一般的である。また,韓国やベトナムでは,環境犯罪処罰法が制定されている。 さらに,最近では,計画的手法,経済的手法,啓蒙的手法等を,従来の規制的手法といかに有効に組み合わせるかということが重要な政策課題となっている。例えば,中国は,水質保全の分野で,排出基準を遵守しているか否かにかかわらず,汚染物質の排出濃度に応じて水質汚染費を徴収する「排出賦課金制度」を導入し,また,一部地域で排出権取引を制度化するなど,経済的手法の活用に積極的である。 住民やNGOの参加の重要性は政策担当者にも認識されつつあり,タイ憲法は,環境に重大な影響を与える計画等の実施に先立ち,環境NGO,高等環境教育機関の代表等で構成される独立機関の審議を義務づけている(56条)。 そのほか,事業者の間には,自主的取組み(例えば,ISO14000)に対する関心が高まっており,ラベリング制度も浸透しつつある(韓国,台湾等)。 個別の課題についてみると,まず,環境アセスメントに関しては,東・東南アジアの国々では,日本より早く法制化がなされたが,南アジアの国々では,ガイドラインによるところが多い。 次に,深刻化する廃棄物問題に関しては,有害廃棄物対策を中心とした法整備が進められている(例えば,台湾,インドネシア)。また,より根本的な解決には資源循環型社会の構築が不可欠であるとの認識に基づいて,リサイクル関連法の制定に取り組む国も増えている。例えば,韓国では,省資源・再利用促進法が制定され,日本でも,容器包装法や家電リサイクル法が成立した。 さらに,最近は,環境リスク管理や有害化学物質規制にも関心が高まっている。PRTR制度は韓国でいち早く導入され,日本でも,PRTR法とダイオキシン対策法が制定された。 自然保護の分野では,韓国の湿地保全法,インドネシアの生態系保護法,フィリピンの生物多様性・遺伝子法の制定などが注目される。 公害・環境紛争の処理に関しては,南アジアの動向が興味深い。とくにインドでは,最高裁がイニシアティブを発揮し,立法や行政の欠陥を補っている。具体的には,例えば,
また,最近は,裁判外の紛争処理に対する期待が高まっており,韓国や台湾では,日本の公害紛争処理法と類似の制度が導入された。そのほか,例えば,インドネシアの環境管理法にも,調停に関する定めが置かれている(30条以下)。 このように環境法の整備は進んでいるものの,法の実効性の欠如は,依然として,アジア諸国における共通の課題となっている。その原因としては,
これに対し,インドでは,工場の操業差止判決等を通じ,裁判所が,法の実効性の確保に大きな役割を果たしている。さらに,一定の場合には,最高裁が委員会を設置し,判決の執行状況について調査するとともに,義務が不履行の場合には新たな命令を発するなどして判決のフォロー・アップを行っているようであり,今後の動向が注目される。
主な参考文献
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