human and environment
2-3.鳥類の孵化率の低下
- 環境ホルモン -  今井 佐金吾


アジサシ
マルチメディア鳥類図鑑
アスキ−出版局


 アメリカの五大湖及び、その周辺では既にPCB類、ダイオキシン類(TCDD,PCDD)、そしてDDTやDDEなど、非常に壊れにくいため環境残留性が高く、生物濃縮されやすい有機塩素系化学物質による汚染が明らかになっていた。

 1980年代後半に入り、ミシガン湖のグリ−ンベイで、湖の魚を餌とするアジサシの孵化率が急激に減少していることを Kubiak. JT.らが、1991年に始めて報告している。彼らは汚染の少ない他の湖をリファレンスとして、両湖で採取した卵を分析したところ、グリ−ンベイのものに極めて多くの上記のような有機塩素系化学物質が含まれていることを発見した。また、両湖の卵を人工孵化させたところ、グリ−ンベイのものの孵化率はリファレンスのものに較べて50%も低いことを確認した。


セグロカモメ
マルチメディア鳥類図鑑
アスキ−出版局



セグロカモメの巣
マルチメディア鳥類図鑑
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 一方、1970年代にミシガン湖とオンタリオ湖の周辺でセグロカモメの繁殖行動の異常が発見された。通常は一つの巣で2〜3個の卵が産み付けられるが、その倍もの卵が産み付けられた巣が数多く見つかったのである。

 その後、カリフォルニア大学のマイケル・フライ博士らが、南カリフォルニアでメスどうしのセグロカモメのつがいを発見した。

 この地域の海では1970年頃までにDDTによる大規模な環境汚染事故があった。フライ博士らはこの女性ホルモン様物質の高濃度汚染が鳥たちのオスを雌性化させ、性比の変化を招き、繁殖数が減少したため、メスどうしが巣をつくるようになったのではないかと考えた。事実、彼らはセグロカモメの卵にDDT及びDDEを塗りつけ孵化させたところ雌雄同体の個体が現れたことを報告している。

 五大湖のセグロカモメと南カリフォルニアのそれとは極めて現象が似ており、おそらく胎生期に女性ホルモン様物質の曝露を受けたのではないかと考えられている。

 ちなみに、五大湖のセグロカモメは甲状腺機能に重大な影響を受けていると指摘されているが、この鳥が主な餌としている魚のギンザケは、この湖の食物連鎖のなかでPCB類、DDT、DDE、DDD、そしてハロゲン化多環芳香族炭化水素類などの化学物質を高濃度に蓄積していることが判っている。