human and environment
2-2. 社会環境破壊 - 公害問題 -
- 地球環境問題の解決に向けて - 谷口 文章

A. 水俣病を事例として
 水俣病患者の発見は、1953年(昭和28年)である。原因が解明されたのは1963年である。原因は、水俣湾の工場排水による有機水銀が蓄積した魚介類の摂取による。
 症状は様々であるが、おおむね手足のしびれから耳目の機能低下、歩行が失調性となる。そのころから言語障害を伴う。次第に歩行困難となり、四肢の不随意運動が激しくなり狂躁状態となり、これを繰り返しながら衰弱していく。また先天性(胎児性)水俣病があり知能障害、神経症状などがみられる。


水俣病の患者(水俣市にて、1992年8月)

 1979年(昭和34年)紛争調停。認定患者への補償が行なわれることになったが、認定には時間がかかり十分な内容とは言いがたいと思われる。なぜなら、同じ家族で水俣病になっても、一方は認定され他方は認定されないということが生じており、明確な「区切り」はむつかしいからである。

 甲南大学谷口研究室では88年、92年に水俣を訪れた。明水園の水俣病の患者さんたち、水俣病研究家の原田正純氏、一人芝居「天の魚」で有名な砂田明氏、水俣病センター「相思社」、ガイア水俣などとの交流をもつ。88年12月には甲南大学で砂田氏に講演をしてもらい、そのあと神戸文化ホールで公演を開催した。


砂田 明・一人芝居「天の魚」
(神戸文化ホールにて、1988年)



B. 公害問題の消失のための第一歩
 公害問題は、「企業のモラル」を問うものであり、水俣病患者に対する思いやりの欠如という「社会のモラル」を問うものでもあった。他方、地方行政や政府という社会制度のモラルも再考させる事件であった。
 現在、水俣病の問題は急性毒性としては終わったかのようであるが、日本全国における有機水銀の慢性毒性の問題が依然として残っている。これは装いを新たにした公害問題である。
 今は公害対策や公害教育は、「環境対策」や「環境教育」となって実施されているが、時に公害問題の原点に返る必要がある。そして、これから起こり得る世代間にわたる公害問題や環境汚染こそ注意しなければならないであろう。


C. 現代の環境ホルモンの問題 →
 外因性内分泌撹乱物質( Endocrine Disrupting Chemicals )いわゆる「環境ホルモン」が人類の種の継続に影響を及ぼす恐れのあることが最近分かってきた。
 現在、約70種の化学物質が疑われている。それには、DDT、アルドリン、ディルドリン、ビスフェノールA、ダイオキシン類などが挙げられている。
 因果関係がはっきりしているケースは、フロリダのワニがあげられる。また、日本の河川口にいるイボニシやレイシガイのオス化の現象やコイやタイの精巣に卵巣が発生することなども、身近な問題である。人間の場合、まだ因果関係ははっきりしていないが、成人男子の精子数減少、女性の子宮内膜症の増加などが外因性内泌撹乱物質の影響と考えられている。


正常な精子と異常な精子
(出所:帝京大学、医学部講師 押尾 茂 氏)

 水俣病のケース以上に、環境ホルモンやダイオキシン汚染の場合、直接目に見える問題ではないため、世代間にわたって知らず知らずのうちに身体が侵かされている危険性は大きい。