human and environment
はじめに
- 医療環境と生命倫理 - 谷 荘吉
医療環境と生命倫理のタイトルで扱われる内容の各論に入る前に、そもそも人体が、自然環境の中で生存できる条件について、若干の説明をしておく必要があるのではないかと考えている。 すなわち、人間生存にとって、生命維持が可能なのは、人間がその置かれている環境に対して、適応できる限界がある。それは、人間の生命維持に関する、内部環境と外部環境との調和であろう。それを知るために、人体の構造、生理機能、環境との適応反応などに関する、医学的見地からの理解が必要である。 環境の医学 ここで、そのトータル的な見地から、例えば、環境の医学というカテゴリーで纏めてみる作業が、医療環境と生命倫理ということになるのではないだろうか。 そうした意味では、環境の医学の取り扱うべき課題は、広範であり、大げさな言い方をすれば、人間とは何か?といった、純哲学的な問にまで逆上ることになるかもしれないのである。人間の生物的観点からの分析が出発点になるが、人間が生きているという現実は、単に、生命体としての「生物」に留まらず、「心」とか「精神」とかいわれる、他の動物群には、認められない人間特有の特性によって、外部環境と身体の内部環境への応答の反応が、それだけ複雑になっているのである。 地球の誕生の歴史、そして、地球上に生命が誕生(無機物から生命が誕生したという仮説が、現在真実らしいという学問の成果を信ずる)して、今日の人間にまで進化してきた歴史に関して、気の遠くなるような、年月の経過を想像すると、「生命とは何か」という根源的な疑問への答えを求めることに帰結するであろう。すなわち、地球上に誕生した生命が、その置かれた環境(外界)との接触によって、自己反応をして来た過程が、まさに「進化」の過程ともいえよう。環境に適応できずに失われた生命も多数あったであろう。今日存在している全ての生物は、地球環境の変化(主として、自然環境の気温の変化)に順応して来ることが出来たのである。それにしても、今日、地球上に存在しているということは、驚愕以外の何ものでもないと思われる。その神秘に迫る作業が、環境の医学に課せられた役割ではないであろうか。 近年の医学環境の発展はめざましい。それに応じて医療環境の変化も、ますます顕著になって来ている。人間の生命に対応する医療の環境問題を考えることは、「人間と環境」の課題に密接な関連を有している。従って、医療環境や生命倫理の問題を理解するには、医学概論や医療概論などの領域を学際的に考察することになる。 近代医療で救命できる医療環境と医学環境の限界によって、死に関する生命倫理の関与するターミナルケアやホスピスケアなどの、死を迎える環境などについても解説する。 自然の風景 人間の裸体 蝸牛 講談社 薄井坦子「ナースが視る人体」 顕微鏡 培養細胞 原始社会の類人猿 都会生活風景サラリーマンの出勤風景 |