human and environment
2-1.生命の定義
- 医療環境と生命倫理 -  谷 荘吉

 医学医療の究極的対象は、生命である。しかし、この生命なる抽象的用語の定義となると、極めて困難である。ここでは、生物学的観点からの概念を考察する。地球環境の中で実在する実態は、生物体である。即ち、植物と動物(人間を含む)である。その生物体が宇宙空間に形態を持ち、時間経過に従って生存出来る機能を統一維持する能力を、抽象化して、「生命」と呼んでいるといえよう。その機能が失われた状態を死体(植物では枯れた状態)と認めている。その生物体から、死体への移行を、現象論として、「死」と称している。従って、実態としての「生命とは何か」の問題は、現在でも解決していない。即ち、生命は自然発生したのかという疑問である。現在の仮説では、約45〜50億年前ころ、無機物がら生命が誕生したとされている。そして、生命という機能を有する細胞から分化進展し、突然変異や自然淘汰によって、遺伝的進化を遂げ、現在の地球上の多種多様の生物体(植物体)が存在することになった。

 数十億年の年月を経て、地球環境が変化し、原始的細胞は、やがて多細胞よりなる器官へと進展する。そして、諸種の生物が発生して来た。約7000万年位前に、類人猿の祖先が誕生し、約200万年位以前に人間の祖先としての類人猿が進化したと考えられている。そして、現在地球上には、約50億人位の人間が生活していることになる。

 生活環境の整備によって、自然環境の変化や生活習慣の改善もあり、医療環境の発展も加味して、一般に人間の寿命が長くなったとはいえ、それでもたかだか100年以内に殆どの人間は死亡する。そうした生命観に立つ時、現時点での人間にとって大切なことは、「生と死」の問題であり、死生観の確立に関する研究である。