human and environment
4-2.精神神経免疫学の効果
- 医療環境と生命倫理 -  谷 荘吉

 心の悩みが身体に絶大な影響を及ぼすことは、1950年代後半に、セリエが心理生理的障害に関するストレス理論を提唱して以来、一般に認められて来た。環境的ストレスに対する心理的警告反応として身体症状が出現すると考えられている。心身バランスの崩れといえる。そうした過程の経過中に、精神的エネルギーの方向によっては、身体反応として、自然治癒への体力が働くことが判明して来た。

 それは、近年セリエのストレス理論とは全く別の観点から、精神神経免疫学の発展によって、新しい理論が展開している。

 疾病治癒に関して、心の有り様が果たす役割の重要牲が再認識されている。

 すなわち、心身相関の媚孫で、そのバランスの崩れを自然治癒的な方向で、軌道修正する能力を人間は有しているというのである。

 その病態生理学の研究によれば、自律神経系のアンバランスは、神経細胞に含まているアミノ酸の結合体である神経ペプチドの複雑な相互作用によって生ずると考えられるようになって来た。こうした神経伝達物質は、特定の心理的な気分や情緒の動向と関連して作用するというのである。そして、身体機能にも影響を及ぼし、身体行動にも関与する可能性が示唆されている。この神経伝達物質のペプチドの受容体が、免疫系の細胞にも存在することが認められた。従って、ストレスに対して抵抗することの出来る身体の自然治癒力を左右する能力は、そうした神経系と免疫系との相関が重要な役割を果しているということになる。最近の先端的研究では、免疫学、内分泌学、心理学、神経科学などの相互関係を連携するものは、神経ペプチドとその受容体による関連ネットワークの存在であり、その機構が働くことにより、身体細胞の防衛修復機構や分泌腺機能と脳活動が連動していると考えられるようになった。

 健康生活の基本的態度として大切なことは、環境ストレスに対する心の有り様だということになる。精神心理的対応によって、精神神経免疫機構が働き、心身のアンバランスに対して、自然治癒力の発動が増強されるのである。