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 さて、男子高出身のナベちゃんが期待に胸を膨らませた入学式から1週間後の4月15日、新入生として第1回目のゼミナールに出席したナベちゃんは、ゼミナールの担当教員である伊豫田(いよた)晴之教授(45歳)から、どのようなビジネスをどのようにして立ち上げるのか、その計画書を急いで提出するように言われました。
 かねてから出身地である埼玉県の地域経済の活性化に貢献したいと考えていたナベちゃんは、川口市で鋳物製造業を営む父親・渡辺綱(49歳)から、隣の岩槻市に本社を置く精密機械メーカー・ 嶋蔵精機が最近開発した [氷川流パソコン・プロテクター]の話を聞き、その製品を関西で販売することにしました。
 この製品は、パソコンの家庭への普及に伴って最近世界的に急増している《パソコン・ポルターガイスト》から、家庭内の電化製品を守るために開発されたものです。《パソコン・ポルターガイスト》とは、家庭でのパソコン利用時に電化製品が怪動作を起こす現象で、原因はネットワークを通じてパソコンに入り込んでくる各種のウイルスやノイズなどの“呪い”によるものとされ、これを退散させるためには、なぜか日本古来の神道によるお祓いが最も有効とされています。今の時流を捉えたこの[氷川流パソコン・プロテクター]なら大ヒット間違いないとナベちゃんは踏んだのでした。
 4月22日、ナベちゃんは自信満々でゼミに出席し、伊豫田教授に計画書を提出しましたが、この製品を一体いくらで、誰に、どうやって売るのかと、突っ込まれてしまいました。