4-5-1 番組制作街道 ドイツ連邦国基本法 ナチス・ヒトラーといった歴史的背景を連想させる、ドイツ連邦共和国。明治時代の頃から日本の欧化政策により、選んだ国の一つであるドイツ連邦共和国。勤勉で質素で工業系が得意であるという点も、ドイツと日本は似ていると言われている点も。さらに大戦の敗戦国となり、その後脅威の復興を成し遂げた点でも、共通していると言われ続けている。しかし今、根低に「兵役制度」という大きな違いが存在する。2004年4月9日・23日に放映された在阪テレビ局の番組枠1で私が制作した作品『ボクには殺せない 〜ドイツ・兵役制度と生きる男たち〜』2では、その「ドイツの兵役制度」について取り上げている。ここではドキュメンタリーのテーマである「兵役制度」について歴史的背景を交えながら述べたい。 憲法I-1 ドイツ連邦共和国基本法3
上記は「ドイツ連邦共和国基本法」すなわち、日本でいう憲法に当たるものの一部である。ドイツの憲法の第12a条第一項には「男子に対しては18歳から軍隊、連邦国境警備隊員または民間防衛軍における役務に従事する義務を課すことができる」4 と記されている。すなわちドイツ国籍を持ち18歳以上の男性に、9ヶ月間「兵役義務」が課せられるという内容である。ドイツの中等教育は、生徒の能力・適正に応じてハウプトシューレ5、実科学校(レアルシューレ)6、ギムナジウム7の3つのうち、各々が将来描く夢に応じた学校を選択することができる。この中等教育終了後、大学進学、または就職の前に、ドイツの軍隊へ入隊し軍事訓練を行わなければならない。この制度は男性にのみ課せられるもので、女性には課せられない。ドイツ軍隊、正式にはドイツ連邦国軍と呼ばれ、大きく分けて陸軍・空軍・海軍に分けられる。軍隊入隊後は強制的に各部署へ配属される。CIAの統計8によると、ドイツ連邦国軍の世界的な位置づけは国防費・軍事輸出入費等トータルのランキングで第五位となっている。32万3000人の兵力を持っており、そのうち兵役義務者は13万人。全体の約40%を占め、残りは職務軍人から成立している。 先ほど兵役義務について明記されている憲法を挙げたが、それにはまだ続きがある。ドイツ憲法の第12a条第二項には「良心上の理由から武器をもってする戦争役務への従事を忌避する者には、代替役務への従事を義務として課すことができる」という記述である。簡単に言うならば、兵役に就いて軍事訓練を行うことが良心すなわち、宗教や信条にそぐわない時は兵役義務を拒否することができる。その代わりに兵役よりも長い10ヶ月間、兵役に替わる社会奉仕活動を行わなければならない。兵役を拒否した若者は、ドイツ語で“ 表I-1は、兵役拒否者達が社会奉仕活動を行っている業種別内訳である。圧倒的半数以上が「介護・養護サービス」、すなわち老人ホーム等の施設で働いていることが伺える。他の活動現場としては、ドイツ赤十字・ユースホステル・消防署・救急車両等々ドイツのありとあらゆる場所で兵役代替役務者の姿を見ることができる。兵役に替わる活動はドイツ国内だけでなく、海外でも行うことができる。その場合には、国内の代替期間よりも長い12ヶ月間行わなければならない。日本をはじめヨーロッパ諸国の福祉現場で働く若者もいる。 表I-19
1 将来TVディレクターを目指す学生を対象に番組の企画を募集。採用者には実際に作品を自主制作する機会が与えられ、後日毎週30分番組として放送される。応募があった企画書を審査の上、採用者には制作費として30万円を補助、決められた期間内に撮影・仮編集を行う。その後、プロのディレクターがサポートして局の編集スタジオで本編集を行い、音楽や効果音をつけてプロの音響スタッフによる録音・整音作業で作品を完成させる。
2 『ボクには殺せない〜ドイツ兵役制度と生きる男たち〜』は同番組で2004年度年間大賞グランプリを受賞。 3 Bundeszentrale fur politische Bildung. GRUNDGESTZ fur die Bundeserepublik Deutschland. Berlin. November 2004. pp.17-18. 4 Ibid. P.18 5 ハウプトシューレは、通常、第5から第9学年の5年制で、終了後に就職して職業訓練を受ける人たちが主として就学する。修了者には、ハウプトシューレ修了証が授与される。 6 実科学校(レアルシューレ)は、通常、第5から第10学年の6年制で、修了後に上級専門学校など全日制の職業学校に進む者や中級職につく者が主として就学する。修了者には、実科学校修了証が授与される。 7 ギムナジウムは、通常、第5から第13学年の9年制で、大学進学希望者が主として就学する。修了者はアビトゥア試験を受けることができ、この試験の成績と最終2学年における平常の成績を総合して大学入学の可否が決定され、合格者には大学入学資格(アビトゥア)が授与される。 8 『NEWSWEEK日本版〜ISSUES 2004〜』阪急コミュニケーション発行 2003年12月31日/2004月1月7日新年合併号p.43 9 フォーカー・フールト/訳・田中美由紀、特集「見える戦争・見えない戦争―徴兵制と良心的兵役拒否(ドイツの場合)」『歴史地理教育』(2000年8月号)No.612、pp.21-27をもとに筆者が制作したものである。 |