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4-5-1 番組制作街道
兵役拒否の歴史

 次にドイツの兵役拒否の歴史を概観したい。ここで述べる歴史は、ドイツ兵役拒否の歴史に関するいくつもの文献(詳細は参考文献を参照のこと)を元に作成している。「兵役を拒否することができる」という内容が初めて定められたのは1956年。当時制定された「兵役義務法」に「良心に基づく兵役拒否権」が世界史上で初めて基本権として規定された。この法律が規定される前からも兵役拒否者が少なからずいたようだが、この時点で2447名の兵役拒否者が存在したようである。史上初めて340名の兵役拒否者が代替役務に就いたのは1961年4月10日。冷戦の緊張感の中の60年代、兵役拒否者は「横着者」、「共産主義者」というレッテルを貼られた。60年代後半になると、兵役拒否者の申請が増え始め、政府による兵役拒否者に対する対応が検討されるようになった。当時兵役拒否を希望する場合、兵役拒否者審査委員会などの諸機関に申請し、口頭での審査を受けてそれに通らなければならなかったようであるが、その審査はフェアーなものではなく、過ちやすい質問のワナにかけて無思慮な回答をさせ、説得や脅しによって申請を撤回させようとした実例が多くあった。例えば、以下のようなものである。「あなたはふるさとの町外れを散歩しています。すると突然敵機が上空に現れ、操縦士は町を爆撃すべくコースをとりはじめました。偶然にもあなたの手近にすぐ発射できる状態の対空砲火気があります。町をこの爆撃機から救うことができるのはあなただけです。あなたならどうしますか?」 といった質問である。兵役から逃れるために、良心や思想による“争い”の拒絶を訴えるような回答を探したところで、その作業は無意味とされた。誘導尋問的な質問を浴びせられ、最後には「国民や国家を守る」ことを意味するような発言をさせられてしまうからである。兵役の拒否をせつに望む人々は、当時匿名の質問攻略ガイドブックのようなものがでまわっており、その答案を暗記して面接に望む人も少なからずいたようである。当時の兵役拒否承認率は30%。70年代当初から拒否者の数は現在まで一貫して増え続け、83年に「良心的兵役拒否者法」が「兵役義務法」から独立して成立し、審査も86%から90%が承認されるようになった。


10 フォルカー・フールト/訳・田中美由紀「徴兵制と良心的兵役拒否―ドイツの場合―」『歴史地理教育』歴史教育者協議会612、2000年8月号p.24

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