社会調査工房オンライン-社会調査の方法
←戻る
5-2-2 漠然とした関心を記録する
Example ボランティア・サポート・ミーティング

2002年1月23日(水)(グローブ・ネイバーフッド・センター2階ホール) 14:00〜16:00

 隔月に開かれるグローブ・ネイバーフッド・センターでのグローブ善隣プロジェクトのボランティアの集会に出席する。

グローブ善隣プロジェクトパンフレット1
グローブ善隣プロジェクトパンフレット2
グローブ善隣プロジェクトパンフレット 拡大画像

 プロジェクトのボランティア登録数は、今月の運営委員会での報告では12人。しかし、今日の集会の参加者は私を入れてわずか4名。ウィークデーの日中に出席できる人は限られている。集会の時間を変更したほうが良いのでは、という意見にたいして、「日が暮れて暗くなってからでは寒いし気分も冷えて外出したくなくなる、時間を変えるなら6時頃」という意見がでる。スタッフPが中心になって集会をすすめる。まず出席者がそれぞれの2ヶ月間の活動内容とクライアントの様子などを報告する。
 次に全体でのディスカッション。11月にセンターで行われた応急手当のセミナーについて感想を述べあう。セミナーは有意義だったが、ボランティアの活動は決して医療に関わらないという点について、B「目の前で、たとえば誰かがバタっと倒れて頭をテーブルの上に伏せたとしても?」、P「たとえ、目の前でクライアントが苦しんでいても、自分の判断で薬を飲ませたり、何かを施したりすることはできない。目の前でその人が亡くなりつつあっても、どうすることもできない。それを何とかしようとするのはボランティアの活動の領分ではない。」

写真「応急手当セミナー」
「応急手当セミナー」2001年11月(センター2階ホール)

 今日の会議のなかで印象に残った言葉は2つ。一つは、ファミリー・ポリティックス(family politics)、もう1つはバウンダリー(boundaries)。前者は家族間の政治的関係といった意味で使っているらしいが、ニュアンスとしてはよくない受け止め方の言葉。バウンダリーはより複雑、今日の議論の文脈では、ボランティアが踏み越えてはいけない境界がある、という意味。クライアントが話したいことの聞き役になるのはよい。しかし、クライアントの家族問題に頭をつっこんではいけない。クライアントが、宗教について自発的に話すのを聞くのはよい。しかし、ボランティアが自分の宗教を説いたり、クライアントの信仰に介入してはいけない。月、火、水、木、金、土、日と、定期的に飲む薬が決まっていて、それを飲むのを助けることはある。しかし、医療行為をしてはいけない。マッサージをしてもいけない。
 議論を聞いているだけでも、たいへん難しい問題を含んでいる。グローブ善隣プロジェクトのボランティアの領分とは何か。ソーシャルサービスでも、カウンセラーでも、医療関係者でもなく、クライントの要望によって、「何か」をする人。しかし、その「何か」を定義することは難しい。原則として、ボランティアは、クライアントに電話番号を教えてはいけない。クライアントとボランティアの連絡は、あくまでもセンターを通じて取るということになっている。ボランティアがクライアントに電話をする場合は、電話番号の前に141を押すと、先方の受話器に電話番号記録が残らない。Jが一言、「電話番号を教えるかどうかは、クライアントとの関係によるでしょ?」。実際には、クライアントとボランティアのあいだでの連絡は、センターを通さずに直接している場合もあるようだ。

 「英語が分からなければ、質問してね」とAが私に声をかける。「スラングなんか使っているから分かりにくいわね」とJ。実際に彼らの会話についてゆくのは難しく、後で聞きなおせるようにテープレコーダーで録音してよいか、と尋ねようかと思ったけれど言い出せなかった。今日の会議は、2階のホールで、正方形の小テーブルを6人が囲んで、それぞれが主役のように話していた。MUGIKOといういつもとは違う人間が一人まじり、ひたすら聞いていたから、皆は普段より議論に集中したのだと思う。午前中の重い雲が去って、少し明るくなった空からの柔らかい光が、ちょうどいい照明になって、ホールの真っ白な壁を背景にして、それぞれの顔がきれいに浮かんでいた。今日の一人一人の存在とことばを映像に残したいな、と思った。けれど、たとえば、テーブルの真中に小さなテーブレコーダーを置くと、それだけでも微妙なその場の均衡が崩れそうな気がした。もう少しこのままでいて、記録するときはインタビューという形式(調査というかたち)をとって、一人ずつの話を聞きたいと思う。今は、まだその時ではない。

写真「天窓、グローブ・ネイバーフッド・センター1階ホールから」
「天窓、グローブ・ネイバーフッド・センター1階ホールから」2002年4月


←戻る
copyright(c)2004 Konan University All Rights Reserved.