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5-2-2 漠然とした関心を記録する
Example アフタヌーン・ティー/「うふふ」な感じ

アフタヌーン・ティー:毎月第1月曜日2時から4時まで、グローブ・ネイバーフッド・センター1階ホールで開かれる。15名から20名の住民が集まり、紅茶かコーヒーと各種ケーキを食べながら歓談する。高齢の参加者が多い。センターで活動しているランチ・クラブが飲食物を用意し30円から50円ほどで販売している。会場の片隅に、古本、蚤の市コーナーがある。参加者は福引券(5枚綴り100円)を購入し、最後にくじ引きをして会を終える。石鹸、香水、人形、ハンカチ、ワイン、ビールなどなど、毎回が5つの景品が用意される。グローブ・ネイバーフッド・センターが企画するイベントでは様々な福引が行われる。参加者の楽しみの1つであり、またセンターの収益ともなる。

2002年4月8日(月)

 先月はアフタヌーン・ティーの手伝いを休んだので2ヶ月ぶりの参加。出入口付近のテーブル2つに、蚤の市の品々を並べる。これらは、改築や引越しで要らなくなったからと、地域の住民たちがセンター持ってきたものである。今日は品数が多い。春の陽射しに誘われていつもより参加者が多い、と思ったら15人と少なめ。女性13人、男性2人である。3月にスプリング・フェイトがあったばかりだからか。

写真「アフタヌーン・ティーの蚤の市」
「アフタヌーン・ティーの蚤の市」2002年4月

 品物がだいぶ並んだころで、1組の親子(父と6歳くらいの息子)がやってくる。引越しをするので小物類を運ぶためのキャリアをセンターに借りにきた。男の子は、並んでいる怪獣や動物のゴム製模型に興味津々、恐竜を欲しそう。お父さんがいくらかと聞く。スタッフPが20ピー(約40円,ピー=ペンス)と答えた。男の子は悩んだ末に1つを選んだが、その後また取り替える。お父さんがキャリアについて交渉しているあいだ、他の恐竜と戦わせて遊んでいる。私も、本を詰めたダンボールを日本へ何箱も送るときに、センターからキャリアを借りて郵便局まで運べばいいんだ、助かるな!と心の中で思った。スタッフAは、「いろいろな人が来るから、誰が誰だが、全部の名前覚えられない」という。毎日、実にいろいろな人がセンターにやってくる。たぶん無料で、キャリアは貸し出された。

 アフタヌーン・ティーが始まる前に、一人のボランティアの男性が、いつもようにトレンチ・コートを着て帽子をかぶり、車椅子を押して高齢女性Zをセンターまで送り、さっと帰っていった。Zは、頭をまっすぐに立てることができず首を左に傾けている。小柄で痩せている。車椅子の後に少し大きめのバックを掛けている。いつも6人用のテーブルの端の位置を選ぶ。車椅子のままだと机から少し顔がでるほどの高さだが、皆といっしょにお茶を飲み、ケーキを食べ、おしゃべりを楽しむ。

 2時10分前くらいから、3人、4人と人が集まってくる。顔ぶれは毎回ほぼ同じ。6人掛けの長いテーブルに、4人、6人、5人と座る。Oは、2時半頃やってきた。彼女は「こんにちは」、という日本語の挨拶を完璧に習得。日本の大使館に勤務していたことがある娘さんを相手に練習したのかもしれない。Oの春のオシャレは、紺と青の花柄のスカートに水色のカーディガン、黒い靴という組み合わせである。杖をついている。今まで気がつかなかったが、ロンドンでは、若い人よりも高齢者がスカートをよくはく。ハンドバックは何色だったかなあ。「前回は来なかったのね」と、私に声をかける。娘のところへ遊びにいったことを話してくれる。帰るときも「さよなら」と日本語。先月のアフタヌーン・ティーで私と会ったら日本語で挨拶をしようと楽しみに待っていたのだろう。Oがいつも一緒にお茶を飲む相棒のDが今日は来ていないので、彼女は別のグループのテーブルで立ち話をしてからキッチンにお茶を注文に行った。そこにいたYが椅子を1つ運んで、Oがそのテーブルに座れるようにさりげなくおく。

写真「グローブ・ネイバーフッド・センターのホール入口付近」
「グローブ・ネイバーフッド・センターのホール入口付近」
2002年5月アフタヌーン・ティーにて

 アフタヌーン・ティーは、たちまちのうちにおしゃべりの渦となる。皆よくしゃべる、笑う。楽しそう。参加者たちは気が向いたら古本や蚤の市コーナーを覗く。何人かが品物に目をとめて眺める。「これ珍しい、クリスマスの時とかに注意して見るけれど、こんなの見たことないわ。面白いわね」と売り場担当の私に話す。買うのかなあと思うと、見て楽しんで手にとって元の位置に戻す。アフタヌーン・ティーに参加して4,5回目、出席者が私にさりげなく話かけてくるようになった。

 Hに車椅子を押してもらってZが買い物へ、「陶器の人形」をとってとHに頼む。Hが、「値段がついてないけど、いくら?」と私に聞く。アフタヌーン・ティーでは、他のイベントよりも少し、安く売ることになっている。もともと儲けるためでなく、要らない人から要る人へモノを届けるためのコーナーであるから、値段はあってもないようなものである。それでも、この人形は質がよいので、他のイベントでは2ポンドから1.5ポンドの値がついていたにちがいない。特価だとしたら半額の1ポンドが適当かなと考えた。しかしそれでも高いような気がして、迷ったがさらに値下げして「70ピー」と言った。Hが車椅子の背にかけてあるカバンからサイフを取り出しZに渡す。Hが「ある?」と尋ねる。Zは私に1ポンド硬貨を1枚渡し、「小銭入らない、包んで」という。つり銭を要らないと言われると困ってしまう。H「要らないの?」と聞くと、Zは「要らない」という。最初から1ポンドと言えばよかった。それが相場だ。安ければよいというわけではなくて、適当なお金を払って買いたいときもある。Hがカバンに入れておこうと言うと、Zは膝に乗せて自分で持っていると言う。

 ケーキを食べ終えみんな話に夢中になり、それを観察してばかりいるのも悪いかなと思い、前回のセンターの運営委員会の議事録を読む。これは毎週2週目の水曜日8時から開かれる。その数日前に、前回の議事録等が各運営委員のもとへ郵送、ないしは手渡される。

 最後に福引をして、アフタヌーン・ティーは4時前に終わり。珍しく、自分のために買物をした。3種類、計2ポンド(400円)。1つは巨大なマグカップ。カップにはTHE OFFICIAL 20 MINUTE COFFEE BREAK MUGと書いてある。20分飲みつづけることができるくらい大きくどっしりと重い。この重量では、アフタヌーン・ティーの来客は誰も買わないだろうと思い先に購入。50ピー、100円。2つめは、湯たんぽ付き皿(写真)。これは、少なくとも、去年のクリスマス・フェイトでも、先日のスプリング・フェイトでも売れ残り続けている品。湯たんぽ型の皿(写真左)の中の空洞にお湯を入れて栓をし、料理を載せた皿(写真右)を上に載せ保温する。かんにゅうが入り手触りもよく使い古されていて味わいがある。50ピー、100円。

写真「湯たんぽ付き皿」
湯たんぽ付き皿、2002年4月

 3つめは、バス型のお菓子の缶々(カンが2つ連結、蚤の市コーナーの写真左下)、両脇に車輪がついて転がるバスの形。青、赤、茶色の3種類の車体の色は、器の中に入っているチョコレート菓子の包装紙の色である。缶の絵が楽しくてバスが3台並ぶとうきうきした気分になる。アフタヌーン・ティーの片付けのときPに「これ買うわ」と言うと、売れ残りだから3つ1ポンドでいいと彼女は言う。何か悪いけれど、得をした。この「ちょっと得をした」という感じが、大事なのだろうと思う。センターに来て、買い物をするといってもたいしたものを入手するわけではない。小銭でちょっと楽しいモノを買って、うふふ、という気分。そんな些細なことも、人をこの空間にさりげなく誘う要素の1つとなっている。

 ほぼ片付いたところに、ひげを生やした痩せた男性がセンターにやって来た。革靴、セーター、革のカバン、どれも少々くたびれている。Aが、「プディング食べる?」「紅茶飲む?」「ミルクを入れる、砂糖は?」とキッチンで片付けをしながら尋ねる。Pが隣のオフィスで対応する。Aが私に説明する。「彼は年に2度、センターにやって来るの。1年中、旅して、教会に泊まったり‥‥、そんな人、日本にもいる?」、「多くないと思う」。彼が何をしにセンターに来るのか分からない。旅の様子やこのあたりで仕入れた情報や、教会で年総会があることや、いろいろな事を話しながら、Pに雑誌記事の一部か、コピーを何部か頼んでいる。Pがコピーしている間も彼は話し続け、靴がくたびれたので替えのサンダルが必要だとつぶやく。Pが彼の靴のサイズを聞き、「今ないなあ」と言う。でも、ジャンボセールなどで出品されたモノのなかにサンダルがあれば、Pは次に彼に会うときまでとっておくような気がする。4時過ぎ、アフタヌーン・ティーの片付け終了。


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