社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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6-1-6 資料探索の事例
映画についてビデオおよびシナリオを収集・分析し、恋愛と友情観を考察

 映画「若大将シリーズ」は、加山雄三を主役とする青春恋愛映画ドラマで、1961年から10年間に16本もの作品が作られた。65年に制作された「エレキの若大将」は、主題歌「君といつまでも」(岩谷時子作詞、弾厚作(=加山雄三)作曲)の大ヒットでも知られているので、諸君たち現代の若者でも知っていることであろう。
 81年にシリーズ終了10周年を記念して、その後の若大将をおった「帰ってきた若大将」が制作され、また70年代後半に草刈正雄を主役とした新しいバージョンも2本作られたが、実質的には先の16本が加山雄三版の若大将シリーズだと言える。
 さて、86年卒業のKU君は、貸ビデオ屋でアルバイトをしていたのだが、当時の若者の間では余り知られていなかったこのシリーズに強く惹かれるようになった。この映画を同世代の人間はどのように感じるのだろうか。それが彼の卒業論文の動機となった。
 相談されたぼくはまず、シリーズ全部を見てから分析すべきだといった。しかし、ビデオになっているものは当時10本たらずしかなかった。そこでシナリオを入手する、あるいは概説でもないかどうかを探すことを勧めた。第一の候補は、その映画を作った東宝である。彼は自分の卒業研究のために、ぜひシリーズのシナリオを見せて欲しいと映画会社に手紙で依頼し、それから訪問をした。そのような努力をしてほぼ全部の作品の概要が分かったあと、ストーリーとシチュエーション分析をおこなった。
 それから彼がどのような卒業論文を書いたかを紹介することは、ここでの趣旨にはあわないが、ここで止めたらこれを見ている諸君も消化不良であろうから、かいつまんで一端を紹介しておきたい。
 主人公の家族構成と彼を取り巻く人間関係および物語の構造は、シリーズを通してほぼ同じパターンである。そしてストーリー展開も、69年から日本映画最長シリーズとなった「男はつらいよ」と同じく、ヤマトタケル伝説以来、日本人が大好きな「放蕩息子の帰還」というパターンを踏襲している。しかしK君が着目したのは、若大将、青大将、ヒロインの三者の間で繰り広げられる恋愛と友情の対立であった。
 主人公は、本当は自分が好きなヒロインに対して、友人の青大将から頼まれた恋のキューピット役を引き受けるのだが、この考え方はKくんの同世代の若者にはどううけとられるのだろうか。自分は、若大将の行動は理解できるけれども、友達はなんでや!といっているというのである。そこで、若大将の陥った状況を設定したアンケートを作成し、橋渡し役を引き受けるか、断るか、そしてヒロインと友人にはどのように対応するか、を甲南大学の当時の学生諸君を対象としてアンケート調査することにした。
 60年代の若者の友情と恋愛の考え方と80年代のそれとを比較するというのが目標であったのだが、60年代にさかのぼってインタビューするわけにもいかない。60年代に若者であった人にアンケートをするという手もあったが、経験を積んで若者ではなくなった人の考え方、感じ方は、やはり60年代の若者そのものではない。そこで人気シリーズとして受け入れられた60年代の考え方を、映画の中の主人公の行動中にみられるものと括弧付きで解釈し、80年代の若者には、その行動を受け入れるものは少ないという結果になった。
 結果はともかくとして、この卒業研究は資料探索法とアンケート法を組み合わせておこなわれた。実はほとんどの卒業研究はそうした手法を必要に応じて使いながらやるものなのである。また、資料探索が、アンケートを作るために、なされることがあるということにも、注意を払って欲しい。


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