社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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6-1-6 資料探索の事例
テレビCMを東京と関西で同時間に録画。分類・考察

 96年度卒業生のSMさんは、東京出身であった。祖母の家が関西にあり、甲南大学にはそこから通学をしていたが、彼女が関西に来て最初に戸惑ったのが、友人との対話であった。自分は普通にしゃべっているつもりなのに、相手が、それで?って聞くのだそうである。いや、それでおしまいっていうと、なんや、オチはないのん?といわれてしまったらしい。
 それで、人との接し方や会話のノリという点で、どうも関西人の感性と関東人のそれとはかなり違うらしいということに気がついた。それに加えて、関西で流されているテレビのコマーシャルは、関東では見たこともないようなものがある。そこで、卒業研究では、関東と関西の文化の違いをテレビコマーシャルの比較を通して考察することができないだろうか、と考えた。
 そこでアドバイスしたのが、テレビコマーシャルの東西同時録画である。幸い彼女の両親は東京に住んでおり、自分は関西にいる。何をどのように録画するかを考える場合に重要なことは、比較したいこと以外の条件については、できるだけ同じものに揃えることである。テレビCMといっても、季節や曜日、時間帯、さらにはテレビ局による個性などによって、流されるコマーシャルが異なってくる。関東と関西のCMの違いを比べたいのに、時間帯が異なるもので比較すると、それが地域の違いなのか、夜と昼の視聴者の違いを反映したものか、判定することが困難である。そこで、同日の同時間帯に、関東と関西の同じ系列のテレビ局を選んで、テレビCMを録画する作業から開始した。
 具体的に言うと、
(1) 95年12月11日午後9時〜翌日の午前3時に、テレビ東京とテレビ大阪
(2) 95年12月13日午前9時〜午後3時に、フジテレビと関西テレビである。
 この6時間の録画ビデオ4本が分析の材料である。分析にあたっては、商品を33品目に分け、CM数と全体の中でそれぞれの品目がしめる割合を示すところから開始した。同じ時間内であるが、この間に流されたCM数は、テレビ東京(関東)が229本、テレビ大阪(関西)が249本。またフジテレビ(関東)が211本で、関西テレビ(関西)が239本と、いずれも関西の方が多かった。
 これをもとに、CM品目に関する関東・関西の両方に共通すること(薬品、食品(夜は酒を含む嗜好品)のCMが多いなど)および異なること。時間帯とテレビ局による違い(夜は企業広告と酒のCMが多く、また(1)ではローカルなCMが比較的多いなど)、年末のお歳暮をターゲットにした時期の特徴などが分かってきた。それとともに当初考えていた関西のCMと関西のCMの違いを浮き彫りにする材料も明確に見えてきたのである。とりわけ携帯電話のCMで、同じ会社または同じ系列の会社が提供しているのに、関東と関西ではまったく違うバージョンのCMがあることの発見であった。
 当時の携帯電話のCMは、関東と関西併せて9社あり、関東はアステル東京、東京デジタルホン、ツーカーセルラー東京、NTTDoCoMo東京の4社、関西は、アステル関西、関西デジタルホン、ツーカーホン関西、関西セルラー、NTTDoCoMo関西の5社であった。
 この9つのCMを対象として、内容がコミカルか、シリアスか?表現が調節的か、間接的か?またCMの中の人間関係が、社縁か、血縁か、友人か、恋愛、その他のどれに重点がおかれているか?さらにはどんなタイプのタレントが起用されているか?といった視点から分析がなされた。ここでは人間関係の点を中心として、関東と関西のコミュニケーションの違いに関するSさんの考察の一部を、簡単に紹介しておく。
 「まず東京デジタルホンからみてみる。意地悪い態度をとる女性とちょっと弱い立場にある男性の会話。なぇ男性が弱いかというと、想像するに男性が一方的に女性に恋をしているからである。女性はそのことをわかっていて男性に意地悪い態度をとると思われる。ここには対等な関係がなく、明らかに女性優位の関係である。男性が女性に呼び出されたにもかかわらず、「すごいもの」には触らせてもらえず、女性がいなくなった隙にさわる。女性が戻ってきたときにはすましているが、ウエイトレスにすかさず「触ってました」と冷たく告げ口される。ここで男性がとことん落とされている。男性は立場なく。みもふたもない状態だ。
 次にアステル関西をみてみる。男女複数の若者のなかの男の子が釣った魚の食べ方を携帯で母親に聞き、周りの若者たちも、耳を傾けて聞くというものだ。「おかん、魚ってどうやって食うん?ふん、頭ドついて、内蔵どぱーとだして、目玉は?・・・目玉も食えるん?」と携帯で会話する。周りの若者も想像して気持ち悪そうに顔を歪めている。そしてその会話を聞いて、びっくりして逃げてしまう。「そんな馬鹿な」と思いきや、若者は「聞こえとったか」と残念がる。魚は人間の会話を聞いて「これはたまらない」と思って逃げたのだろう。それに対し、人間も、本来なら「そんな馬鹿な」と思うであろうのに、まともに魚のとった行動に対し「きこえとったか」と言う。ここでは魚と人間を差別せず、魚と人間を対等に扱っていることがうかがえる。
 関東は人間どうしの関係、関西は動物と人間の関係という違いがあるが、このコマーシャルのなかには関東と関西の人間関係のあり方、コミュニケーションのあり方が隠されていると思うのである。・・・・・関西では、はじめは、魚は食物として扱われており、魚は魚であったが、人間の話を聞いて驚いて逃げた所で、人間と同じレベルになっている。その魚にたいして人間も「聞こえとったか」と人のように扱っている。最終的に食物から、人間と対等の立場になった。・・・・・・それにたいして、関東では、男性の一方的な恋心のために男性の鯛場が弱くなっている。そして最後まで弱いままで、人間どうしにもかかわらず対等にはならなった。・・・・・関西では始めに下にいるものでも、周りのフォローにより、上に上がってくる。それに対して関東では始めに下にいるものをなおかつ下に落としてしまっているのが特徴だといえる。・・・」
 ほかにも、彼女が発見した面白い考察があり、現在でも大変意味のある研究だと思う。この卒論は、この項の筆者(森田)のホームページに紹介しているので、関心のある方は、それを参照していただきたい。


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