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原価計算 長坂悦敬
第4章 原価計算の3つの計算ステップと工業簿記

4-2  工業簿記

1.勘定科目

工業簿記で用いられる勘定科目は以下のように分類される。

(1)原価要素勘定

  • 材料勘定(素材勘定、買入部品勘定など)
  • 労務費勘定(賃金勘定、給料勘定、従業員手当勘定など)
  • 経費勘定(外注加工費勘定、 減価償却費勘定など)

(2)原価集計勘定

  • 製造間接費勘定
  • 製造(仕掛品)勘定

(3)その他の勘定

  • 製品勘定
  • 売上原価勘定
  • 販売費及び一般管理費勘定(貸倒引当金繰入勘定、発送費勘定など)
  • 売上勘定

2.原価要素勘定の記帳

1.原価要素の購買

各原価要素の勘定の借方に、各原価要素の購入高やこれらに対する支払高(または、発生高)が記入される。

  • 材料勘定  借方:材料を購入したときの購入高
  • 労務費勘定  借方:賃金や給料などの支払高
  • 経費勘定  借方:電力料などの支払高や原価償却費などの発生高

原価要素の購買時の仕訳

2.原価要素に対する支払

製品を製造するための原価要素を使用することを消費という。製品の製造にいくら原価要素を使用したかを金額で示したものを消費高(消費額)という。各原価要素の消費高は、各原価要素の勘定の貸方に記入され、最終的には製造(仕掛品)勘定の借方に集計される。

借方 購入高、支払高(発生高) | 貸方 消費高(原価要素を使用した場合、その金額)

(1)製造する製品が1種類の場合(直接費・固定費の分類が必要ない場合)

各原価要素の勘定の貸方から製造(仕掛品)勘定の借方に振り替え、各消費高を製造勘定に集計する。

借方科目 金額 貸方科目 金額  
材料 95,000 買掛金 95,000 (1)材料95,000円を掛で仕入れた。
製造 62,000 材料 62,000 (2)材料62,000円を消費した。
労務費 87,000 当座預金 87,000 (3)労務費87000円を小切手を振り出して支払った。
製造 89,000 労務費 89,000 (4)労務費89000円を消費した。
経費 76,000 現金 76,000 (5)経費76000円を現金で支払った。
製造 71,000 経費 71,000 (6)経費71000円を消費した。

原価要素の消費時の仕訳

(2)製造する製品が2種類以上の場合(直接費・固定費の分類が必要な場合)

各原価要素の消費高を各製品ごとに集計するために、製造直接費(直接費)と製造間接費(間接費)とに分類する。そして、製造直接費については製造勘定に振り返る。実際には特別な場合を除いて製造勘定を製品別に分けたりはしないが、製造勘定の中で各製品別に集計されると考える)。製造間接費については、いったん製造間接費勘定に振り替えて集計する。

  借方科目 金額 貸方科目 金額  
(1) 材料 82,000 現金 82,000 (1)材料92,000円を仕入れ、代金は現金で支払った。
(2) 製造 83,000 材料 111,000 (2)材料を直接費として83,000円(A製品に50,000円、B製品に33,000円)、間接費として28,000円消費した。
製造間接費 28,000
(3) 労務費 85,000 現金 85,000 (3)労務費85,000円を現金で支払った。
(4) 製造 61,000 労務費 97,000 (4)労務費を直接費として61,000円(A製品に43,000円、B製品に18,000円)、間接費として36,000円消費した。
製造間接費 36,000
(5) 経費 69,000 当座預金 69,000 (5)経費69,000円を小切手を振り出して支払った。
(6) 製造 27,000 経費 82,000 (6)経費を直接費として27,000円(A製品に16,000円、B製品に11,000円)、間接費として55,000円消費した。
製造間接費 55,000

原価要素の消費時の仕訳

製造勘定と製造間接費勘定に転記

製造勘定の記入を製品別に示すと次のようになる

3.原価集計勘定の記帳

1.製造間接費勘定

製造建設費勘定の借方には、各製品に共通的に消費され、特定製品に集計できない製造間接費が集計される。この製造建設費勘定に集計された金額も製品の製造に要した原価であるので、製品の原価として集計するために配賦という手続きによって各製品に集計される。

この配賦額は、製造間接費勘定の貸方から製造勘定の借方に振り替えられる。(この場合も、製品勘定は製品別に設定されていないが、製品勘定の中で製品別に集計すると考える)

2.製造勘定

製造勘定の借方には、直接材料費、直接労務費、直接経費、製造間接費配賦額が集計される。つまり、原価要素の消費高のすべてが製造勘定の借方に集計される。
そして、製造勘定の借方に集計された金額のうち、完成した製品の製造に要した製造原価を製造勘定の貸方から製品勘定の借方に振り替える。

製品勘定への振り替えを行った後の製造勘定の残高(月末の残高)は、製造途中の未完成品(これを仕掛品という)に対する原価(月末仕掛品原価)を示す。この月末仕掛品原価は、翌月の初めには月初仕掛品原価となり、製造勘定の借方に「前月繰越」として表示される。
また、製造勘定については、仕掛品勘定という名称で設定される場合もある。

取引を製造勘定と製造間接費勘定に転記する
  借方科目 金額 貸方科目 金額  
(1) 製造 64,000 材料 92,000 (1)材料を直接費として64,000円(A製品33,000円、B製品に31,000円)、間接費として28,000円消費した。
製造間接費 28,000
(2) 製造 47,000 労務費 87,000 (2)労務費を直接費として47,000円(A製品に27,000円、B製品に20,000円)、間接費として40,000円消費した。
製造間接費 40,000
(3) 製造 22,000 経費 59,000 (3)経費を直接費として22,000円(A製品に18,000円、B製品に4,000円)、間接費として37,000円消費した。
製造間接費 37,000
(4) 製造 105,000 製造間接費 105,000 (4)製造間接費105,000円をA製品に50,000円、B製品に55,000円配賦した。
(5) 製品 105,000 製造 105,000 (5)B製品が完成した。

4.その他の勘定の記帳

1.製品勘定

製品勘定は在庫となっている製品の増減を記録する資産の勘定である。
製品勘定の借方には、製品が完成したときにその完成品の製造原価が製造勘定の貸方から振り替えられくる。また、工業簿記では、製品の販売の都度、販売した製品の製造原価が製品勘定の貸方から売上原価勘定の借方に振り替える。

製品販売時の仕訳(製造原価の振替のみ)
(借方)売上原価 ○○○ | (貸方)製造 ○○○

なお、製品勘定の残高(月末の残高)は、製品の在庫高(月末製品残高)を示す。よって、月初時点での残高は「前月繰越」として月初製品原価を示すことになる。

2.製造勘定

売上原価勘定の借方には、販売された製品の製造原価が計上される。

3.売上勘定

製品が販売されると、販売された製品の売上高が売上勘定の貸方に計上される。したがって、製品が販売されると、売上高と売上原価を計上する仕訳が同時に行われる。

(借方)売掛金など ○○○  | (貸方)売上 ○○○
(借方)売上原価  ○○○  | (貸方)製品 ○○○

製品(製造原価73,000円)を100,000円で販売し、代金は掛とした。

  借方科目 金額 貸方科目 金額
(1) 売掛金 100,000 売上 100,000
売上原価 73,000 製品 73,000

4.販売費及び一般管理費勘定

販売費及び一般管理費勘定(または各費目の勘定)の借方には、販売活動や企業全般の管理に要した費用の支払高や発生高が計上される。

販売費及び一般管理費の支払時(発生時)の仕訳
(借方)販売費及び一般管理費 ○○○ | (貸方)現金など ○○○

5.月次損益勘定

工業簿記では、会計期末に行う決算とは別に、原価計算期末(月末)に月次決算を行うことがある。その場合、その月の収益(売上高)と費用(売上原価と販売費及び一般管理費)を月次損益勘定に集計して、その月の営業利益を算定する。
したがって、月次損益勘定の貸方には売上勘定の貸方残高が、月次損益勘定の借方には売上原価勘定の借方残高と販売費及び一般管理費勘定の借方残高がそれぞれ振り替えられる。

月次損益勘定への振替仕訳

(借方)売上 ○○○  | (貸方)月次損益 ○○○
(借方)月次損益 ○○○  | (貸方)売上原価 ○○○
(借方)月次損益 ○○○  | (貸方)販売費及び一般管理費 ○○○
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