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原価計算 長坂悦敬
第6章 製造間接費の計算

6-2  製造間接費の製品への配賦

(a)配賦基準

製造間接費を各製品に配賦する基準となるものが配賦基準(allocation basis)である。次のような配賦基準があり、この中から最も妥当なものを採択することになる。

(1)価額法

各製品に集計された原価総額を基準に製造間接費発生額を配賦する方法であり、どの原価を用いるかによって次の方法に分かれる。

  • 直接材料費法:各製品に集計された直接材料費総額を基準に配賦する。
  • 直接労務費法:各製品に集計された直接労務費総額を基準に配賦する。
  • 直接原価法:各製品に集計された製造直接費(直接材料費、直接労務費および直接経費)総額を基準に配賦する。

(2)時間法

各製品の製造に要した総時間を基準に製造間接費発生額を配賦する方法であり、どのような時間を用いるかによって次の方法に分かれる。

  • 直接作業時間法:各製品の製造に要した直接工の総直接作業時間を基準に配賦する。
  • 機械運転時間法:各製品の製造に要した機械の総運転時間を基準に配賦する。

(3)物量を基準とする方法

各製品の物量を基準に製造間接費発生額を配賦する方法であり、数量を基準にする方法(数量法)や重量を基準にする方法(重量法)がある。

(b)実際配賦の計算と記帳

製造間接費を実際配賦する場合には、原価計算期間に実際に発生した製造間接費総額を配賦基準数値の割合で各製品に配賦する。この手続は以下の通りである。

(1)実際配賦額の計算

各製品への実際配賦額は次式で算出する。なお、実際配賦基準数値総数は、実際操業で発生した実際配賦基準数値の合計である。

各製品への実際配賦額 = 実際配賦率 × 各製品の実際配賦基準数値

(2)実際配賦額の記帳法

実際配賦額は製造間接費勘定から仕掛品勘定に振り替える。製造間接費を実際配賦した場合、製造間接費の実際発生額の全額が各製品に配賦される。したがって、実際発生額 = 実際配賦額となる。

(c)予定配賦の計算と記帳

製造間接費の実際配賦では実際発生額および実際配賦基準の数値が必要になる。しかし、これらのデータは原価計算期末にならなければ判明しない。このため、製品原価の把握が遅くなる。さらに、実際配賦率が原価計算期間によって変動するために、製品への製造間接費配賦額が影響を受け、製品原価が期毎に変動するという不都合も生じる。そこで、あらかじめ妥当と思われる配賦率を定めて製造間接費の配賦額を計算することがある。あらかじめ定めた配賦率を予定配賦率(predetermined overhead rate)と呼び、予定配賦率を用いて配賦額を計算することを予定配賦という。予定配賦は正常操業度を前提に算定した配賦率でもって計算することから正常配賦とも称される。

(1)予定配賦額の計算

各製品への予定配賦額は、次式の通り、予定配賦率に製品の実際配賦基準数値を乗じて求める。なお、予定配賦率は、期首時点において見積もった今後一年間の配賦基準数値(予定配賦基準数値、基準操業度)ならびに製造間接費予想発生額(製造間接費予算額)から算定する。

各製品への予定配賦額 = 予定配賦率 × 各製品の実際配賦基準数値

予定配賦率を求めるに際して用いる製造間接費予算額は基準操業度(denominator level)における製造間接費予想発生額である。基準操業度は正常生産量を反映する操業度でなければならない。操業度の水準に関しては、理論的生産能力水準、実際的生産能力水準、平均操業水準、期待実際操業水準等がある。理論生産能力水準(theoretical capacity level)は現有設備で達成可能な最高の能率水準であり、減損・仕損、手待時間などに対する許容額も含まれず、実際には期待されていない理想的状態での能力水準である。実際生産能力水準(practical capacity level)は、理論的生産能力から、その維持管理のための不可避的な作業休止による生産量減少分を差し引いた生産能力である。これらは生産技術的条件に着目した能力であり、製品の需要量を考慮していない。一方、平均操業度や期待実際操業度は製品の需要量に着目した操業度である。平均操業水準(average capacity level)は将来の数年間において予想される平均的需要量に応える操業度であり、原価計算基準では正常操業度(normal capacity)と称している。また、期待実際操業水準(expecteted actual activity level)は、次年度に予想される操業水準であり、予算操業度ともいわれる。従来、平均操業度を正常操業度としてきたが、激動する市場環境に遭遇し、近年、期待実際操業度を基準操業度に用いた正常配賦を行う傾向が強まっている。 ところで、製造間接費発生額は操業度変動の影響を受ける変動費と影響を受けない固定費に分解できる。したがって、製造間接費予算額は変動費予算額と固定費予算額の合計であり、次式で表せる。

製造間接費予算額 = 変動費予算額 + 固定費予算額
変動費予算額 = 変動費率 × 基準操業度

(2)製造間接費配賦差異

製造間接費を予定配賦する場合、製造間接費の実際発生額と予定配賦額とに差異が生じることが多い。この差異を製造間接費配賦差異と呼び、次式で求める。なお、差異がプラスの場合を有利差異、マイナスの場合を不利差異という。

製造間接費配賦差異 = 製造間接費予定配賦額 - 製造間接費実際発生額

(3)予定配賦額の記帳

製造間接費の実際発生額は、各費目勘定から製造間接費勘定の借方に振り替え集計される。製造間接費の予定配賦額は、製造間接費勘定の貸方から仕掛品勘定の借方に振り替える。製造間接費勘定の借方と貸方の金額の差額は製造間接費配賦差異となる。製造間接費勘定の貸方に発生する不利差異は製造間接費配賦差異勘定の借方に振り替え、製造間接費勘定の借方に発生する有利差異は製造間接費配賦差異勘定の貸方に振り替える。なお、会計年度末には、過去1年分の製造間接費配賦差異が計上されている製造間接費配賦差異勘定の残高を売上原価勘定に振り替える。

図表2-8 不利差異と有利差異

不利差異の場合

有利差異の場合

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