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原価計算 小倉幸雄
第11章 直接原価計算

11-1  直接原価計算の意義と特徴

(1)直接原価計算の意義

直接原価計算(direct costing)とは、経営活動によって生じた原価を変動費(variable costs)と固定費(fixed costs)とに区分し、売上高から変動費たる直接原価を控除して貢献利益(contribution margin)を算定し、この貢献利益から固定費たる期間原価を控除して営業利益を算定する原価計算方式である。

したがって、直接原価計算は、損益分岐点図表で示されるC-V-Pの関係を会計システムの中で分析し、損益計算書で報告できるように構築された計算制度にほかならない。また、変動製造費用のみで製品原価を計算することから、変動原価計算(variable costing)ともいわれる。

直接原価計算(direct costing)と全部原価計算(absorption costing)との基本的相違は、製造上の固定費を製品原価 (product costs)に含める(全部原価計算)か、期間原価(period costs)として処理する(直接原価計算)かにある。

(2)直接原価計算の特徴

直接原価計算の特徴を示すと、次のようになる。

  • 全部原価計算では、すべの製造原価をもって製品原価とするのに対し、直接原価計算では、変動製造原価のみをもって、製品原価(棚卸資産原価)とする。変動販売費および変動一般管理費は、直接原価(広義)として売上原価に含めて計上される。固定製造原価、固定販売費及び固定一般管理費は、期間原価として処理される。
     製品原価期間原価
    全部原価計算全部の製造原価販売費および一般管理費
    直接原価計算変動製造原価固定製造原価、販売費および一般管理費
  • 直接原価計算では、生産量と売上高と利益との直接的な関係をみることができる。それによって、損益算定や短期利益計画設定のための、経営管理上の重要な資料を提供することができる。
  • 直接原価計算では、売上高、変動費、固定費を、さらにセグメント(事業部、製品、マーケティング・チャネル、販売地域、顧客の種類)別に区分することによって、セールス・ミックス、価格設定、セグメント別の業績評価などに有用な資料を提供することができる。

(3)直接原価計算の記帳手順

変動費だけを製品原価に集計する部分原価計算である直接原価計算の記帳はつぎのような手順をとる。

  • 直接材料は変動費であるとみなし、材料勘定から直接材料勘定に振り替える。
  • 直接賃金も変動費であるとみなし、賃金勘定から直接賃金勘定に振り替える。
  • 製造間接費を、変動製造間接費と固定製造間接費に分け、変動製造間接費は仕掛品(製造)勘定に振り替える。
    <月末>
  • 完成品の原価を、仕掛品勘定より製品勘定に振り替え、仕掛品勘定を締め切る。
  • 売上に対応する製品原価を、製品勘定より売上原価勘定に振り替え、製品勘定を締め切る。さらに、売上原価を月次損益勘定に振り替える。
  • 販売費および一般管理費を、変動販売費および一般管理費費と固定販売費および一般管理費に分け、それぞれ、月次損益勘定に振り替え、販売費および一般管理費を締め切る。
  • 製造原価である固定製造間接費を、月次損益勘定に振り替え、固定製造間接費を締め切る。
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