蛍光やりん光のような光ルミネッセンスに対し,化学反応の結果生じた励起状態の分子が基底状態に戻るとき,余分のエネルギーを光として放射する現象を化学発光(chemiluminescence)といいます。
化学発光を利用した分析法は鋭敏で蛍光分析より高感度な場合が多く,ルミノール反応を 利用した血痕の鑑定はよく知られています。化学発光には,反応の結果生じた励起分子による直接型と,エネルギー移動した共存蛍光物質が発光源となる間接型とがあります。いずれも極微量物質の分析に利用されます。
ルミノール(5−アミノ-2,3−ジヒドロ-1,4−フタラジンジオン,図3・4)は直接型で,酸化により励起状態の3−アミノフタル酸を生成して,これが化学発光を生じます。酸化剤としてH
2O
2などが用いられますが,分析対象としては, H
2O
2,H
2O
2を生成する成分(例えばグルコース,この場合グルコース酸化酵素によりH2O2を生成),あるいは反応を促進する触媒成分(Co
2+,Mn
2+,Cr
3+など)があり,これらの高感度定量が可能です。ルミノールの他,ルシゲニン,アクリジニウムも同様に用いられます。間接発光型にはシュウ酸エステルなどがあり, H
2O
2と反応すると共存する蛍光物質を励起発光させます。HPLCの検出手段などとして使われています。
図3・4 ルミノール
化学発光法は気体成分にも適用され,大気汚染物質の連続自動測定に利用されています。大気や排ガス中の一酸化窒素の測定では一定流速(例えば1 l/min)で吸引した試料ガスを反応室に導き,過剰のオゾンと混合すれば,
"NO + O
3 → NO*
2 + 0
2 , NO*
2 → NO
2 +
のように,一部のNO は励起状態になり,これが基底状態に移るとき600〜3000nmの波長域で発光します。これを光電子増倍管で検出すれば,NO濃度に比例した信号が得られます。 はコンバーターに通してNOに還元しNO + N0
2の含量として測定し,両者の差から求めます。図3・5に計測器(ケミルミ計ともいう)の原理図を示した。大気用は0.005〜数ppmの測定に適し一定時間ごとにNO,NO (含量-NO)の値を交互に記録し,また積算して1時間の平均値(1時間値)を示すようになっています。応答時間は10〜数10秒なので瞬間値を得ることができ,共存成分の影響も小さいですが、目盛校正のための濃度既知の標準ガスと,定量成分を含まないゼロガスとを必要とします。この他,オゾンの測定にも使われています(反応試薬エチレン,発光物質ホルムアルデヒド)。
図3・5 分光蛍光光度計の光学系の1例