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環境計測のための機器分析法 茶山健二
5章 ICP発光分析法 プラズマに試料を送り込む
5-8  スペクトル限界とダイナミックレンジ
 表5・1に主な元素のスペクトル線とその検出限界を示しました。ここに挙げた分析線はlCP発光分光分析で最も感度のよいもので、アークやスパーク放電で感度の高い線と必ずしも同じではありません。波長の前につけたIやIIの記号はそれぞれ、中性原子線と1価のイオン線であることを示しています。検出限界は一般に、バックグラウンドの変動の3倍の強度を示すような元素の濃度と定義されていますが、実際の定量分析で実用的と考えられる濃度はこの検出限界濃度の5倍から10倍であって、検出限界濃度まで定量できると考えると大きな誤りをおかすことになるので注意が必要です。特に多量の主成分元素がある場合や、目的元素の線にスペクトル干渉がある場合には、感度の低い線を使わなければならないこともあって、表5・2の検出限界を得ることは困難です。
表5・2 ICP発光分光分析の検出限界
元素分析線(nm)検出限界(ng/ml)
AgI328.0681
AlI396.1525
AsI193.69610
AuI242.7953
BI249.7732
BaII455.4030.2
BeII313.0420.1
BiI223.0615
CI193.09110
CaII393.3660.1
CdI228.8021
CeII418.66010
CoII228.6161
CrII205.5522
CuI324.7540.5
DyII353.1702
ErII337.2712
EuII381.9670.2
FeII259.9400.8
GaI294.3647
GdII342.2473
GeI265.11815
HfII339.9805
HgII194.2275
HoII345.6001
II206.16010
InII230.60620
IrII224.2687
KI769.89650
LaII408.6721
LiI670.7841
LuII261.5420.3
MgII279.5530.1
MnII257.6100.3
MoII202.0301
NaI588.9952
NbII309.41810
NdII401.25510
NiII221.6473
OsII225.5850.5
PI213.61820
PbII220.35320
PdI340.45810
PrII417.93910
PtII214.42310
ReII227.5252
RhII233.47710
RuII240.2727
SI180.60020
SbI206.83310
ScII361.3840.2
SeI196.02615
SiI251.6115
SmII359.2608
SnII189.98010
SrII407.7710.1
TaII240.0635
TbII360.9175
TeI214.28110
ThII283.73015
TiII334.9410.6
TlI276.78730
TmII346.2202
UII385.95850
VII309.3111
WII207.91110
YII371.0300.4
YbII328.9370.4
ZnI213.8561
ZrII339.1982
 ダイナミックレンジとは検量線の直線になる濃度範囲をさすが、ICPではこの範囲が5〜6けたもあるというのが大きな特長の一つになっています。この性質はICP発光分光分析を多元素同時定量に使う場合に特に重要で、微量から主成分までの広い濃度範囲が、試料溶液の希釈などの操作なしで測定できることになります。これは原子吸光分析と大きく異なっている点です。このような広いダイナミックレンジが得られるのは、ICPがドーナツ構造を持っていて、試料はほとんどプラズマの中心部に入り、自己吸収、つまり目的元素のスペクトル線がプラズマの周辺部にある同じ元素によって吸収されるという現象が少ないことによります。このような良い直線性があるということは、標準試料溶液の数を少なくしても分析誤差が大きくならないということにもなり、管理分析などで装置の較正に要する時間を節約するのに大いに役立っています。
参考文蔽
一般参考書
  • 日本分析化学会編:“原子スぺクトル分析(上下)”,分析化学体系,丸善(1979).
  • 高橋 努・村山清一縮:“液体試料の発光分光分析,ICPを中心として”,日本分光学会測定法シリーズ,学会出版センター(1983).
  • 原口紘充:”ICP発光分析の基礎と応用”,講談社(1986).
  • 日本分析化学会編:”ICP発光分析法”,機器分析実技シリーズ,共立出版(1988)
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