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modern american economy
はじめに
担当:甲南大学 稲田義久


 第2次世界大戦は、戦後のアメリカン・システム(パックス・アメリカーナ)を確立する上で重要な触媒となりました。というのも大戦中の経済拡張(戦時経済)によって、アメリカ経済は1930年代の長期的不況から完全に脱することができたからです。

 戦後のアメリカン・システムとは、ここでは戦後数十年にわたり持続的成長を実現できたシステムのことを意味しますが、これは大戦中の懐妊期を経て戦後に完成したのです。

 戦時経済の下では、企業体制、労使関係といった制度的な経済組織が大きな変化をこうむりましたが、これが戦後の繁栄の基礎となりました。また戦時期に形成された連合国秩序が戦後のパックス・アメリカーナの世界的な政治経済秩序の枠組の基礎になったのです。

 これから現代アメリカ経済を語りますが、そのシステムの基礎が完成した時期である戦後から、まず第一歩を踏み出しましょう。

表2-1 戦後−1960年代のアメリカ経済のパフォーマンス
  実質GDP成長率 失業率 労働生産性上昇率 CPI上昇率 悲惨度指数
 
1946 -11.1     8.3  
1947 -0.7     14.4  
1948 4.3   2.7 8.1  
1949 -0.6 5.7 3.4 -1.2 4.7
1950 8.7 3.8 6.9 1.3 6.6
1951 7.6 3.2 2.4 7.9 11.2
1952 4.0 2.5 2.1 1.9 4.9
1953 4.6 3.2 2.3 0.8 3.7
1954 -0.7 4.9 2.0 0.7 6.2
1955 7.1 3.8 4.2 -0.4 4.0
1956 2.0 3.9 -0.8 1.5 5.6
1957 2.0 4.6 2.6 3.3 7.6
1958 -1.0 5.6 2.3 2.8 9.6
1959 7.2 5.3 4.1 0.7 6.2
1960 2.5 5.6 1.2 1.7 7.2
1961 2.3 5.6 3.5 1.0 7.7
1962 6.0 5.3 4.5 1.0 6.5
1963 4.3 5.3 4.5 1.0 6.5
1964 5.8 4.5 4.1 1.3 6.5
1965 6.4 3.9 3.1 1.6 6.1
1966 6.6 3.4 3.5 2.9 6.7
1967 2.5 3.7 1.9 3.1 6.9
1968 4.8 3.3 3.0 4.2 7.8
1969 3.0 3.3 0.1 5.5 9.0

 戦時経済から戦後経済への再転換は比較的スムーズに実現されたといえるでしょう。もちろん終戦で軍需が一旦消滅したため1946年の実質GDP成長率は-11.1%と大きなマイナスになりましたが、翌年の落ち込みは-0.7%と軽微でした。なお、ここでの成長率は1996年連鎖価格表示の実質GDPに基づいて計算しています。旧系列の実質GDPの成長率と比較する場合には注意してください。

 ただ経済のあらゆる領域に供給ボトルネックが生じており、一方で、戦時中に抑制されていた潜在的累積需要(pent-up demand)が顕在化したため、消費者物価指数(CPI)で見たインフレ率は、46年の+8.3%から47年には+14.4%に加速しました。しかし、戦後再転換の最終局面である49年にはインフレ率は-1.2%と初めてマイナスに転じたのです。

 このように生産調整が実質1-2年で収束し、パニック的な戦後恐慌を発現させなかった大きな要因は、再転換過程における政府の経済管理能力・安定化機能が格段に優れていたためです。ニューディール期を経験し、さらに戦時の大規模な経済管理の経験で培われたノウハウが、戦後の政府の経済安定化機能に資したといえるでしょう。

 以降、1950-60年代まではアメリカの経済のパフォーマンスは非常に確固としたものでした。たしかに、50年代後半には停滞傾向や60年代後半には「クリーピング・インフレーション」の問題が懸念されるようになりましたが、全体としては持続的な経済成長を実現できたといえるでしょう。次節では、戦後の持続的成長を可能にしたメカニズムについてみて見ていきましょう。

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