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modern american economy
2-4. インフレの兆し
担当:甲南大学 稲田義久


 前節で見たように、1965年を転機に財政圧力が完全雇用状態の経済に急速にかかってまいります。一方で、戦後のアメリカを象徴する技術革新のうねりは影を潜めてきます。供給サイドに目立った改善は見られませんから、超過需要の発生が供給ボトルネックに直面すると結果として生ずるのはインフレーションの加速です。

クリーピング・インフレーション
 戦後-1960年代のインフレ動向を消費者物価指数の伸びで見れば、4つの時期に分けることができます。(1)戦争経済からの再転換期と朝鮮戦争、(2)50年代、(3)60年代前半の超安定期、そして(4)緩やかな上昇期に区別することができます。

 戦後再転換期では供給ボトルネックと解き放たれた潜在需要でインフレが昂進します。47年のインフレ率は+14.4%を記録し、48年は+8.1%と高いインフレ率が続きますが、49-50年には収束します。51年にインフレが7.9%に上昇したのは、朝鮮戦争の影響です。

 戦争経済が終わると50年代はインフレの安定期に入ります。もっとも、57-58年にも若干のインフレ期が見られましたが。

 60年代前半は超安定期で、インフレ率は1%台の超安定的な水準で推移します。アメリカ経済の生産性の水準は高く、生産性の伸びの範囲内に需要の伸びが基本的に収まりましたから、インフレは生じませんでした。

 しかし、60年代後半はインフレ率が緩やかに加速します。ベトナムへの軍事介入がエスカレートしたため、軍事支出の増加が生じてきます。加えて社会保障関連支出の増加基調がはっきりしてきます。国防費と社会保障関連費支出の増加は総需要への追加です。すでに述べたように、60年代半ばは完全雇用の状態が実現できていましたから、軍事支出と福祉関連支出の拡大は新たな需要増の追加であり、景気過熱とインフレの危機を内包していました。

図2-3 戦後-60年代のインフレーション:消費者物価:%
図2-3 戦後-60年代のインフレーション:消費者物価:%


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