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modern american economy
はじめに
担当:甲南大学 稲田義久


 戦後のアメリカ経済の推移を見ると、この時期は多くの点で最低のパフォーマンスの時期といえるでしょう。アメリカの世界におけるプレゼンスは1970年代には次第に低下しましたが、80年代に入っても地盤低下は止まりませんでした。この傾向を反転させようと試みたのがレーガン大統領の経済政策(レーガノミクス)でしたが、これは当初の意図に反してあまり成功しませんでした。1970年代から80年代にかけて、高インフレと高失業(したがって、高まる悲惨度指数)、労働生産性上昇率の鈍化などに苦しみ、マクロ経済のパフォーマンスは地に落ちます。

 下表は、この省で取り扱う時代の経済パフォーマンスをスケッチしたものです。第1次レーガン期(1981-84年)のパフォーマンスが特に悪く、第2次レーガン期(85-88年)にかけて幾分回復しますが、後を受けたブッシュ大統領の時期(88-92年)には再び悪化したいえるでしょう。

表4-1 1980年代のアメリカ経済のパフォーマンス
  実質GDP成長率 消費者物価上昇率 失業率 短期金利 財政収支
1980 -0.2 13.5 7.1 11.5 -738
1981 2.5 10.3 7.6 14.0 -790
1982 -2.0 6.2 9.7 10.7 -1280
1983 4.3 3.2 9.6 8.6 -2078
1984 7.3 4.3 7.5 9.6 -1854
1985 3.8 3.6 7.2 7.5 -2123
1986 3.4 1.9 7.0 6.0 -2212
1987 3.4 3.6 6.2 5.8 -1498
1988 4.2 4.1 5.5 6.7 -1552
1989 3.5 4.8 5.3 8.1 -1525
1990 1.8 5.4 5.6 7.5 -2212
1991 -0.5 4.2 6.8 5.4 -2694
1992 3.0 3.0 7.5 3.5 -2904

 筆者は80年代半ばにアメリカのペンシルベニア大学に留学しました。留学目的の1つはアメリカの高成長の秘密を理論的に知り、またアメリカ経済のすごさを身でもって体験することでした。実はこの判断は、1960-70年代のアメリカ経済が高いパフォーマンスを示したときの印象に基づいていました。ところが時代の変化のスピードは早く、現地に行ってみるとアメリカ経済の地盤沈下は予想したより著しかったのです。筆者の判断の前提と現実の変化にはタイムラグがあり、そのギャップに心中戸惑うばかりでした。

 筆者のこの不安な心理をうまく説明してくれる2つの書物が、レーガノミクスの時代のはじめとおわりに、アメリカ人学者によって書かれました。1つはアメリカのシステムに代わって日本経済の効率性を称讃したエズラ・ヴォーゲル(Ezra Vogel)の著書、”ジャパン・アズ・ナンバーワン(Japan as No. 1)”です。2つはポール・クルーグマン(Paul Krugman)の“期待喪失の時代(The Age of Diminished Expectations)”です。いずれも衰退するアメリカ経済を内外から分析したもので、80年代のアメリカ経済のイメージを理解するのに優れて読みやすい本です。いずれも邦訳が出ています。

 1980年代は世界経済においてアメリカのプレゼンスが低下する一方ですが、しかし別の見方をすれば、日本のそれが急速に高まった時代です。レーガンの採った政策は日米の経済関係を構造的に深く進化させ、両国の相互依存の高まりを強く認識させた時代であったのです。

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