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modern american economy
はじめに:長期景気拡大の終焉
担当:甲南大学 稲田義久


 アメリカ経済は1982年11月の景気の谷から90年7月に景気の山を迎えます。緩やかながら92ヶ月の景気の拡張を享受しました。しかしながら、90年8月2日、イラクのクウェート侵攻に端を発する中東湾岸危機は景気反転の引き金となりました。翌91年1月17日、アメリカを中心とする多国籍軍のバグダット空爆の開始をもって湾岸戦争が始まり、2月28日に多国籍軍の圧倒的勝利で戦争は終結しました。湾岸戦争の経済的効果(4-5. 湾岸戦争の経済的帰結 を参照)については多くの分析がありますが、結局は、ブッシュ政権にとってこの戦争は高い買い物となります。91年3月に景気は底を打つのですが、以降しばらくは回復の実感を伴わないものとなりました(1-3. 景気日付 を参照)。実際に景気の反転が認知されるには時間がかかります。また回復が緩やかなために雇用が増加せず(Jobless Recovery)、戦争には勝ったものの経済の成果面からは敗戦とみなされたのです。このためブッシュ共和党政権は92年11月の大統領選挙でクリントン候補にやぶれ、政権は93年1月に久方ぶりに民主党に移行することになります。

表5-1 1990年代のアメリカ経済のパフォーマンス
  実質GDP
成長率
失業率 消費者物価
上昇率
悲惨度指数
1990 1.8 5.6 5.4 11.0
1991 -0.5 6.8 4.2 11.0
1992 3.0 7.5 3.0 10.5
1993 2.7 6.9 3.0 9.9
1994 4.0 6.1 2.6 8.7
1995 2.7 5.6 2.8 8.4
1996 3.6 5.4 3.0 8.4
1997 4.4 4.9 2.3 7.2
1998 4.3 4.5 1.6 6.1
1999 4.1 4.2 2.2 6.4
2000 3.8 4.0 3.4 7.4
2001 0.3 4.7 2.8 7.5
2002 2.4 5.8 1.6 7.4

 クリントン大統領の任期期間の経済パフォーマンスは概して良好で、高い成長率を実現できました。失業率が7.5%から4%台へと着実に低下する一方で、インフレが加速しなかったことがこの期間の著しい特徴です。その結果、悲惨度指数は11%ポイントから6%ポイント台へと大きく改善しました。クリントン大統領は経済の面では評価されるでしょう(表5-1 1990年代のアメリカ経済のパフォーマンス を参照)。

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