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modern chinese economy
5-3 経済特区設置と対外開放
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


5-3-1 「自力更生」から「開放」へ
 改革・開放の第一の柱が国内の市場経済化推進であるとしたら、第二の柱は「自力更生」から「開放」政策への転換です。具体的には1979年7月に「中外合資経営企業法」が制定され、合弁形態での外国企業誘致への制度的基礎が築かれました。計画期における中国の対外経済はプラント導入等を除いて基本的に貿易は従、まして外国企業の誘致など考えられないことでした。しかし近隣の韓国や台湾の急成長に触発されて、中国もそれまでの自力更生から対外開放へと舵取りを転換していくのです。

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5-3-2 経済特区の設置
 その第一の柱は「経済特区」設置であり、1980年に深せん、珠海、汕頭(以上、広東省)、厦門(福建省)の四つ地域に経済特区が創設されました。この経済特区内ではその他の地域とは別の制度が適用され、いわば計画色一色の中国都市部に突如、市場経済地域が出現することになります。

 この特別に優遇された地域はその後、族生し、1984年4月には14都市(天津、秦皇島、大連、煙台(1987年に威海が分離)、青島、連雲港、南通、上海、寧波、温州、福州、広州、湛江、北海(未設置))を経済技術開発区に指定、1985年1月には長江デルタ、珠海デルタ、福建省のびん南デルタ地域を開放区に指定、1988年には遼東半島と山東半島を含む渤海湾周辺都市を開放都市に指定、海南省を広東省から分離した上で全島を経済特区に指定、1990年には経済特別区なみの優遇措置を適用可能な上海浦東新区を設置、と続きます。

図5-7 開放区の地図
図5-7 開放区の地図


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5-3-3 貿易制度改革
 第二に、外資導入と並んで、中国はそれまでの非常に閉鎖的な貿易制度の改革を開始します。具体的には中国において貿易を行うためには「貿易権」という政府認可が必要であり、1978年時点でこの貿易権を認可された対外貿易専業企業(中国語では「進出口総合公司」と言い、以下では「外貿企業」と略記します)はわずかに10社だけでした。もちろんすべて政府機関です。こうした一部小数の国営企業による貿易独占体制を1979年から改革し、新たに地方政府傘下の外貿企業、政府の所轄官庁傘下の外貿企業、そして大型の生産型国営企業傘下の外貿企業に貿易権が認められました。ただし80年代では貿易権の認可は依然、制限的であり、通常の貿易(中国では「一般貿易」と表現します)については輸入許可証制度や輸入数量割り当て、および高率関税によって国内産業が手厚く保護されていました。

 しかし同時に、「加工貿易」と言って、それに認定されると輸入原材料に対する関税免除、輸出税免除といったほぼ自由貿易に近い形態の貿易が促進されます。具体的には原材料の所有権は外国側に残されたまま加工賃のみが支払われる「来料加工」、自前で原材料を輸入するが、加工製品は全量外国側が引き取る「進料加工」、海外の注文先の仕様で原材料を輸入して加工・輸出する「来件装配」、原材料や資材の支払い代金を加工製品の現物で行う「補償貿易」の四つがそれに当たり、これらを総称して「三来一補」と言います。あるいはこの加工貿易は、原材料の調達先および加工品の販売先をともに海外に依存していることから、「両頭在外」とも呼ばれています。つまり、中国の貿易制度は計画期の閉鎖的制度を残したまま、旧計画部門における政府権限を徐々にその他の部門に開放するとともに、加工貿易という自由貿易要素を新たに付け加えることから始まったのです。

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5-3-4 海の中国と陸の中国―東アジアの在外華僑・華人―
 現在、在外華僑・華人は少なくとも5000万人以上存在すると言われており、そのうち2300万人強が東南アジア、600万人が香港、2000万人が台湾に居住しています。そして改革・開放初期にいおいてその経済的実力は本家の中国本土を上回っており、この海外で活躍している華人たちを「海の中国」と呼んでいます。また本家の中国本土は「陸の中国」です。その経済的実力の一つの証左として、各国・地域における華人人口割合と経済発展の程度(物価の差を調整した一人当たりGDPで代理します)の関係を示しておきました(図5-8)。図によると、明らかに東南アジアの経済発展水準は華人人口割合と比例関係にあります。このように中国人の商売上手は世界的にも定評があり、その活動環境を整備すれば、かなりの活力を発揮しうることは間違いないようです。

 実は、中国の開放政策は、経済特区が香港、台湾に近い地域に設置されたことからも分かるように、明らかにこの「海の中国」を積極的に活用することを狙っていました。そして、実際この狙いは当たったのです。ある意味では、今日の中国の経済的成功は、かなりの程度この「海の中国」が「陸の中国」を飲み込んでゆくことによって可能になったのかもしれません。

図5-8 東アジア各国・地域の華人人口割合と経済発展水準
図5-8 東アジア各国・地域の華人人口割合と経済発展水準
注)
香港・台湾の華人人口割合は100%と仮定した。また中国のそれは漢族の割合。

資料)
華人人口割合は各国統計、一人当たりGDPは世銀データ(台湾はIMFデータ)。

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