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modern chinese economy
8-1. 政治の仕組み
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


8-1-1 中国共産党の仕組み
 中国での唯一の政党です。憲法には「中国は共産党が指導する」と規定されていますので、「中国」という国家組織の上部概念として中国共産党が存在することになります。

 中国共産党はピラミッド構造をしていて、中国にあるあらゆる組織に、共産党の支部や出先機関を配置しています。共産主義以外の考えを持つことはご法度なので、共産党を支持する思想教育を徹底させるのが目的です。しかしながら、1992年以降は、「市場社会主義」という正体不明の概念を持ち出してきていますので、共産主義思想を教育するのではなく、共産党に反対することは悪いことであると教育するといった方がわかりやすいでしょう。

 つまり、思想そのものにはそんなに厳しい締め付けはないといえます。そして、共産党員になることは、思想的に共産主義を理解しているというより、組織や社会の中で尊敬される「良い人」的意味合いを持っています。

図8-1 中国共産党のピラミッド構造
図8-1 中国共産党のピラミッド構造
出所) 稲垣清「図解 中国のしくみ」中経出版、25ページ

 中国共産党は、5年に1回のペースで全国代表大会を開いて、重要事項の審議、党規約の改正、中央委員会報告、ならびに、中央委員の選出を行います。2002年の11月に16回目の党大会が開催され、16期目の中央委員が選出されました。

 全国代表大会の決議は中央委員会が執行します。中央委員会は年一回のペースで、中央委員会総会を開き、重要政策の方針を確認します。中央委員会総会は「中全会」といわれます。例えば、第10期の3回目の中央委員会総会は、第10期3中全会というように略称されます。

 中央委員の中でも、政治局員の会議である政治局会議の権威は絶大で、中国の重要事項の決定は、人事をふくめてここで行われます。ただ、軍(中国では人民解放軍といいます)の組織は、政治局とは別扱いというまことに奇妙な政治形態です。

 アメリカなど先進国の軍隊は、内閣の下部組織であり、その司令官は、国防長官であり、最高司令官は大統領です。つまり、軍隊が政府と対立することなどありえない「シビリアンコントロール」が効いています。しかし、中国では、中央軍事委員会という軍事組織が、中央委員会から、政治局とは別に、政治局と対等な組織として選出されます。つまり、共産党の中で、政治と軍事は対等な関係にあるわけです。

 ところが一方で、後から述べるように国務院という日本での内閣に相当する組織があり、その中の国防部という組織があります。人民解放軍はその指導も受けることになっていて、一体どうなっているのかわからないというのが正直なところです。つまり、人民解放軍は、共産党の軍隊でもあり、中国政府の軍隊でもあります。

図8-2 中国共産党の組織図(2002年11月16回党大会)

図8-2 中国共産党の組織図(2002年11月16回党大会)
出所) 稲垣清「図解 中国のしくみ」中経出版、27ページ


図8-3 中国の指導者世代交代図[ 拡大 ]

図8-3 中国の指導者世代交代図
出所) 稲垣清「図解 中国のしくみ」中経出版、34,35ページ


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8-1-2 政府の仕組み
図8-4 国務院の新しい組織図(2003年4月現在)

図8-4 国務院の新しい組織図(2003年4月現在)
出所) 稲垣清「図解 中国のしくみ」中経出版、38ページ

 中国共産党が日本での自由民主党にあたるとすれば、中国の「国務院」が日本での内閣にあたります。日本での国会にあたるものが、「全国人民代表大会」で、国務院は全国人民代表大会に責任を負っています。国務院は、国家としての行政機関なのですが、上で述べたように、これとは別に共産党の統治機構がオーバーラップしているというのが、中国政府のわかりにくさです。

 国務院の長は、日本と同じように、「総理」と呼ばれます。その下に、副総理、国務委員(副総理のようなもの)がいます。日本での省に相当するものが「部」と「委員会」で、それぞれの長が日本での大臣に相当します。

 国務院の役割は次の4つです。
1) 法律に基づいて行政措置を行うこと
2) 全国人民代表大会に議案を提出すること
3) 各部と各委員会を指導すること
4) 経済計画と予算を編成し、執行すること

 中国の省は、きわめて詳細な縦割りで、かつては40もの部と委員会がありました。しかし、これではあまりに縦割りというので、1998年の全国人民代表大会で、29の部と委員会に再編されました。

 さらに、2003年の全国人民代表大会では、「国家経済貿易委員会」と「対外貿易経済合作部」が合併し「商務部」となりました。これで、現在は28の部と委員会になっています。従来は、対外貿易と直接投資の窓口が複数あり、外の人間には何が何だかわからなかったのをWTOへの加盟にあわせ、一本化しました。

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8-1-3 全国人民代表大会
 「国家機構」の最高権力機関ということになっています。日本での国会にあたりますが、欧米や日本の議会が2院制の制度であるのに対して、中国の「全国人民代表大会」は1院制です。

 全国人民代表大会メンバー数は2,985人という膨大なもので、各省・直轄市・自治区の代表おおよび、軍の代表という形になっています。全人民の代表ですから、少数民族や非共産党員も含まれています。とはいえ、約70%が共産党員ですので、人民代表大会での結論と共産党大会での結論が食い違うといった事態はないように設計されています。

 任期は5年で、新中国建国以来、10期の人民代表が選ばれています。代表大会は一年に一回春に、北京の人民大会堂で開催されます。10期目は2003年から2008年までです。

図8-5 全国人民代表大会のしくみ

図8-5 全国人民代表大会のしくみ
出所) 稲垣清「図解 中国のしくみ」中経出版、45ページ

 全国人民代表大会の仕事は、憲法を含む法律の制定、国家主席と国務院総理の選出、国家経済計画と予算の承認などです。国家主席というのは国の代表(元首)ということになっていますが、空席であった時代もあるなど、実際には何もすることのない名誉職的なポストです。

 全国人民代表大会そのものには「議案」の提出権はありません。議案は共産党か国務院から出されます。また、全国人民代表大会には、議案や予算の否決権もないのだろうというのが現実のところです。したがって、かつては、共産党や国務院から提出された「議案」をそのまま満場一致で可決するだけの「ゴム印会議」などと冷やかされていました。

 しかし、近年の自由化の影響もあって、一定の反対票が投じられるようになりました。とくに、人事案件では共産党内の路線の対立が投票行動にも現れるようになっていますし、検察の汚職摘発に関する報告では、取り締まり強化を促す反対票が多くなっています。

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8-1-4 司法の仕組み
 欧米・日本などの先進各国では、立法・司法・行政の3権力がその度合いはことなるものの、一定の独立性を持っていますが、中国では、全国人民代表会議の下に位置づけられている。つまり、共産党の指導の下にあるわけです。

 日本の裁判所にあたるのが「人民法院」、日本の検察庁にあたるのが「人民検察院」です。組織的には、裁判所なら、最高人民法院、高級人民法院、中級人民法院、とランクがあるのですが、これらは、それぞれの議会(つまり、共産党組織)に対応しているだけで、欧米・日本のように裁判の上訴に対応しているものではありません。実際、中国の裁判制度は2審制をとっているとはいうものの、事実上の1審制です。というのは、2回裁判を行っても、判決が覆ることはありませんし、場合によっては、1回目の裁判で刑が確定し執行される場合すらあります。そして、死刑の執行はしばしば公開で行われ、刑罰には「見せしめ」的要素が色濃く残っています。

図8-6 司法組織

図8-6 司法組織
出所) 稲垣清「図解 中国のしくみ」中経出版、51ページ

 旧聞に属するかもしれませんが、毛沢東の死後に、毛沢東の妻であった紅青をはじめとする文革4人組が逮捕されました。当時、中国には死刑はなかったのですが、あわてて死刑をつくり、彼らに死刑の判決を下しました。しかし、外国から非難され、共産党の指導部も気がとがめたのか、特赦として罪一等を減じ、終身刑にしたという、訳のわから事件がありました。

 中国はしばしが「法治国家」ではなく「人治国家」であると言われます。中国の人にその理由の説明を求めれば、「中国は広大でいろんな民族もいるので、画一的は法律で規定するのは無理だから」とか「共産党の指導が、個人のあるいは短期的な利益よりも、社会的なあるいは長期的利益を優先させ場合があるから」と答えます。しかしながら、「人治国家」の本音の部分は、裁量政治・ご都合主義による政治を許し、汚職と腐敗の温床になっていることは、誰もが認めるところです。

 近年では、中国が国際社会の仲間入りをするために「法治国家」を目指しているとはいえ、中国では、ようやく「司法試験」制度が開始されたばかりです。つまり、これまでは、裁判官や検察官が、法律の専門家ではなく、共産党から任命される「役人」だったわけです。一方弁護士も、国務院の司法部の法律顧問処に属しますので、日本のように民間人ではなく公務員ということになります。

 こうした制度化では、公正な裁判が期待できるわけがなく、特に地方に行くと、きわめていい加減な裁判が続いているようです。

 ただ、上で述べたように、中国を近代化するためには裁判制度を整備するのは急務と考える指導者も多く、政府は司法試験制度を立ち上げたり、各級の検察院は「反汚職・収賄工作院」を設けたりするなど、司法改革の兆しが見え始めています。

 また、中国経済が国際化するにしたがって、中国企業と外国企業との間の経済紛争が増加しているのですが、中国の裁判制度では、外国企業の勝ち目は全くないとされていました。いまでも、その傾向は変わらないのですが、裁判になる前に、企業間で紛争を解決できるように、外国企業が中国国内での外国人弁護士事務所の開設を要望していました。中国のWTO加盟を機に、中国国内でも、外国人弁護士事務所の開設が認められるようになってきたのも朗報のひとつです。

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8-1-5 人民解放軍の仕組み
 人民解放軍は、もともとは、革命のために、中国共産党が組織したものですので、その位置づけが複雑なものなっています。

図8-7 軍機関の組織図

図8-7 軍機関の組織図
出所) 稲垣清「図解 中国のしくみ」中経出版、55ページ

 人民解放軍を統帥する「国家中央軍事委員会」と「共産党中央軍事委員会」のメンバーは同じです。つまり、同じ組織に2つの看板をかけたようになっています。

 人民解放軍は「総参謀部」「総政治部」「総後援部」「総装備部」の総部があります。

総参謀部: 作戦指揮、軍事訓練、装備計画
総政治部: 軍内部での政治思想教育、共産党の出先機関
総後援部: 兵站部門
総装備部: 兵器・装備の配備

 人民解放軍には、北京、瀋陽、南京、済南、広州、成都、蘭州の7つの大軍区があり、その下に26の省級軍区があります。

 軍隊の規模は、2000年の推定値で、約300万人という膨大な規模です。内訳は陸軍が230万人とそのほとんどを占め、海軍26万人、空軍47万人と推定されています。またこれとは別に、第2砲兵部隊といわれる戦略ミサイル部隊があります。

 対アメリカや対ロシアとの軍事的緊張が弱まった今、人民解放軍の存在意義が問われています。もはや、これほどの大きな軍事力を維持するだけの対外緊張がありません。また、1989年の天安門事件では、民主化運動の学生を弾圧し、強い批判にさらされました。国民を守るはずの軍隊が国民に銃口を向けましたからです。いまだ、人民解放軍への敬意が回復されたとはいえない状況です。中国政府の財政難も人民解放軍の士気を下げています。装備は旧式化するし、兵士の賃金も低い水準で抑えられています。

 旧共産国では共通の問題なのですが、中国でも先進国に比較して大きな組織になっている軍事部門(つまり、非生産部門)の整理・縮小が産業社会への脱皮が大きな課題です。

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