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modern chinese economy
8-2. 社会の仕組み
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


8-2-1 中国の民族
 中国は漢民族が中心で90%を占めますが、残りの10%は55の少数民族からなる多民族国家です。

 少数民族が集中している地区は、その民族の名前をつけた行政区があります。

【省レベル】
 新疆ウイグル自治区(ウイグル族)、内蒙古自治区(蒙古族)
 広西チワン族自治区(チワン族)、チベット自治区(チベット族)
 寧夏回族自治区(回族)

【地区レベル】
 延辺朝鮮族自治州(朝鮮族、吉林省)など23

【県レベル】
 孟村回族自治県(回族、河北省)など68

 言うまでもないことですが、少数民族にも漢民族と同等の権利が与えられています。人民代表大会にも少数民族の枠が確保されています。ただ、各自治区の行政府の長官には各民族出身者が就くものの、共産党の書記は漢民族が就くことになっています。

 蒙古やチベットでは民族対立が激しく、今後の動向が注目されるところです。ロシアではチェチェンが泥沼の抗争を繰り広げていることを鑑みれば、中国も民族問題の扱いには慎重にならざるをえないというところです。

 中国では、文革前は、憲法で信仰の自由が保障されていましたが、文革期には事実上信仰の自由がなくなりました。ところが、文革以降は再び宗教活動の自由が復活しました。少数民族が多数存在するので、宗教もたくさんあります。

【漢民族】
 仏教、プロテスタント、カトリック、道教などを信仰しています。

 道教は、漢民族から生まれた民間宗教です。日本でいえば神道に相当する民族固有の宗教です。いまでは信仰するという感じのもではありません。

 仏教は1世紀ごろインドより伝来します。唐の時代から本格的に発展します。天台宗、禅宗、華厳宗、浄土宗といった日本に伝来した中国流の教派が生まれました。

 カトリックは16世紀ごろ、プロテスタントはアヘン戦争以降、外国人宣教師の活動で普及しました。キリスト教は中国では少数派ですが、近年は増加傾向にあります。

【ウイグル、カザフ、キルギス、ウズベク】
 主にイスラム教を信仰しています。

 7世紀半ばに、アラビアやペルシャの商人から現在の中国の西北と東南に伝えられました。13世紀になると、モンゴルの軍隊の移動とともに、アラビアやペルシャの商人が中国の各地に広く活動するようになり、イスラム教が中国各地に広く伝播しました。

 現在、イスラム教徒は1600万人に達するといわれています。

 最近の宗教の話題といえば、2000年の「法輪功事件」でしょう。法輪功は自己鍛錬法という側面もあり、宗教かどうかは意見が分かれるのですが、そのグループの行動がオカルト集団的だったので、中国政府は「邪教」として禁止しました。しかし、これに抗議する形で、法輪功の信者が北京の共産党本部を取り囲むという事件が起こりました。これを法輪功事件といいます。

 国政府は、表向きは宗教の自由は保障しているものの、宗教の影に隠れての共産党批判は許さないという立場です。そもそも宗教には、現状に対する不満、批判などと表裏一体になっているケースがあり、共産党の今後の対応が注目されています。

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8-2-2 教育の仕組み
 中国の教育は、日本と同じように、6,3,3,4年のシステムがとられています。ただ、それぞれの段階の名前が少しだけ違います。

表8-1 教育制度と学校数
学校等級 種類 学年 特徴
初等教育 小学校 6年 491,273 義務教育・学費免除・雑費徴収
中等教育 初級中学(中学校) 3年 65,525
高級中学(高校) 3年 14,907 入学試験で選抜・学費および雑費徴収
私立高校 3年
専門高校 3年 3,260
高等教育 大学 4年 1,225 入学試験で選抜・学費および雑費徴収
 総合大学 4年 (91)
 医学専門大学 5年 (96)
 理工学部 5年 (231)
注)(1)カッコ内は内数 (2)学校数は2001年現在
出所)稲垣清「図解 中国のしくみ」中経出版、225ページ

 日本の小学校にあたる学校は「小学」とよばれ、これはほとんど同じなのですが、日本の中学校と高等学校をあわせて、中国では「中学」とよんでいます。中国の「中学」の前半3年を「初級中学」、後半3年を「高級中学」とよびます。中国では、初級中学までが義務教育となっていて、学費は国費で負担されます。高級中学以降は、義務教育ではなく、入試があり学費も徴収されます。この制度は、欧米・日本の制度と同じであり、政治的には敵対する資本主義国ではありながら、制度の一部を模倣するあたりは、中国人の柔軟性が伺えます。

 大学は中国全国に1,225あります。日本では大学数が約600であることと、日中の人口規模の差を考えると、中国では大学進学が相当の難関であることがわかると思います。

 中国の大学はすべて国立大学なのですが、かつては、中国国務院の部(日本の省庁)に対応して作られていました。医学大学、財経大学、師範大学など、専門大学が多いのはそのためです。そしてその卒業学生は、その専門に応じて、就職口を「配給される」という制度だったのですが、最近は、職業選択の自由の幅が増えているようです。

 近年の機構改革で、大学は教育部の主管に一元化されました。大学には91の総合大学という大規模大学があります。その中でも30が重点大学に指定されていて、研究や行政官養成の中心大学になっています。重点大学には北京の北京大学、清華大学、人民大学、上海の福旦大学、交通大学などが含まれます。また、中国のイメージからは以外かもしれませんが、理工系の教育機関が多いという特徴があります。

 大学の入試は、日本のように、センター試験と各大学の独自試験の2段階ではなく、アメリカのように1段階の共通試験によって決まります。しかも、アメリカのように「参考資料」として用いられるのではなく、その試験の得点がそのまま大学選択につながります。中国でもいわゆる「名門大学」が存在し、将来のキャリアに有利になるため、名門大学へ進学するための受験戦争が社会問題化しています。

 一方で、義務教育の破綻が別の社会問題になっています。義務教育の学費自体は無料なのですが、学校を運営する行政主体が様々な「雑費」を徴収します。その負担のために、子供を学校に通わせられない、貧困層が存在するためです。

 日本や先進国では、国民の選挙によって政治家を選びますので、政治家はその人気が重要ポイントになるのですが、学歴はそれほど大きなファクターではないかもしれません。しかし、中国では、共産党の党員が官僚を組織し、そのリーダーが政治家として輩出されますので、おのずと中国の指導者層には高学歴者が多くなります。かつては、革命戦争に参加した軍人あがりが多かった、第一世代、第二世代の指導者とは様変わりです。2002年の11月の党大会で選出された356人の中央委員の98%が大学卒です。修士以上が30名、博士号取得者が8名という高学歴でした。欧米への留学経験者も10名います。

 また、現在の中国では留学熱が盛んなのも特徴です。中国のIT産業や外資系企業が、留学からの帰国者を優遇するためです。それとともに、教育の質は欧米の方が上であるという認識があるのだと思います。韓国や台湾では、アメリカでの教育経験があることが、政治家としてもアカデミックでも、とても有利になります。中国では、留学帰国者を「海帰派」と呼ぶのですが、近い将来、中国政府の要職の多数を海帰派が占めるようになるかもしれません。

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8-2-3 戸籍の仕組み
 中国では、戸籍は独特の意味を持っています。

 日本では、移動の自由が認められていますので、戸籍はどこで生まれたかを示すのみで、現実生活では住民票の方が意味を持ちます。一方、中国では、1961年に戸籍制度が強化されて以来、戸籍がなければ、食糧の配給も受けられないし、教育も受けられないことになりました。また、原則的に戸籍の移動ができません。そして、戸籍には農村戸籍と都市戸籍があり、農村から都市への移動は、特に厳格に制限されています。

 ただ、改革開放政策によって、経済特区が建設されると戸籍管理の状況が少し変わってきます。経済特区とは、外資に恩典を与えて誘致するために、都市部の郊外に建設された工業地域です。中国は経済特区の外資を梃子に、工業化を推し進めようとしますが、工場を建設するには労働力が必要です。そこで、経済特区では、数年の期限付きですが、農村住民が都市戸籍を得ること(都市で働くこと)ができるようになりました。

 また最近は、経済特区でなくても、北京や上海では、合法非合法の農村労働者が増加しています。彼らは「農民工」と呼ばれています。農民工のなかには「暫定都市戸籍」を取得している者もいるのですが、非合法で流動して者もいます。すでに都市部の経済は、ある意味で農村からの労働者に依存しないことには成立しなくなっているので、いかに都市部を人口増加に耐えるような構造にしてゆくことがこれからの中国の課題です。

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