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modern chinese economy
9-4. 成長と雇用:外資系企業と
       民営企業の役割分担
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


 いずれにしても、問題の根っ子には雇用問題があるようです。実際、中国は表向き成長している割には雇用の確保が難しい経済と言えます。例えば1%の経済成長によりどれだけ雇用が増加するかを計算してみると、80年代では0.29%の雇用増加がありましたが、90年代ではそれが0.11%に低下しています。

 こうした中での期待のニュー・ホープは民営企業です。外資系企業は付加価値ベースでは工業部門付加価値の25%程度と決して小さい存在とは言えませんが、残念ながら雇用面での貢献は小さくならざるを得ません。地場企業に比べて生産性が圧倒的に高いからです。外資系企業は2002年末時点で42.4万社存在しますが、言われているところではその全雇用量は2100万人です。世界全体を見渡して外資系企業が2000万人を超える雇用を創っている国はないのですが、如何せん中国は人口大国です。都市部の就業者総数2億3940万人(2001年時点)に比べると、その存在は1割弱と小さくなります。

 これに対して、私営企業と個人企業からなる民営企業は現在、育ち盛りです。図9-3は90年代における所有制別都市部就業者の推移を示したものです。これによると、下崗が失業者として処理された1998年以後、国有・都市集団所有制企業の雇用が激減しており(両者合わせて1996年の1億4260万人から2001年の8931万人へ5329万人減少しました)、その逆に民営企業の雇用は、1990年の671万人から2001年時点で3658万人へ約3000万人拡大しています。90年代における二つの成長セクターのうち、外資系企業は雇用面ではなく、新しい製品・サービスや貿易面で中国経済をリードする役割を担い、その結果生まれる派生的需要を民営企業が埋めて雇用を創るという、いわば役割分担があるようです。残念ながら、中国は社会主義イデオロギーの下で「公有制」に固執しすぎました。最も活力ある部分がそのイデオロギーにより差別されてきたのです。例えば私営企業が公式的な認知を受けたのは、1999年の憲法改正においてでした。それまでの「補完物」から「社会主義市場経済の重要な構成要素」への格上げです。このイデオロギーが薄れつつある今、中国にようやくほのかな光が見え始めようとしているのです。

図9-3 都市部の所有制別就業者数
図9-3 都市部の所有制別就業者数
注)1998年より下崗は失業者として計上されている。

資料)国家統計局編「中国統計年鑑」2002年。

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