modern chinese economy
9-3. 負の遺産「銀行不良債権」
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史
国有企業改革のツケは雇用面ばかりではありません。長年それに資金を融資してきた国有商業銀行の不良債権問題が積み残されているからです。既に説明したように、1995年の商業銀行法施行以前における国有銀行の融資は多分に政策融資でした。そして国有企業の経営がおかしくなり始めた1989年以後では、銀行融資は逆に国有企業を救済する役目に変質します。
しかし、こうした金融を通じた救済は預金者に負担をしわ寄せするだけでなく、銀行の融資姿勢を保守的にすることにより、成長企業への資金供給を滞らせることになります。第二に、融資の焦げ付きによる銀行資産減と債務超過の疑念が銀行信用そのものを脅かし、最悪の場合、銀行取付と流動性危機に陥る危険性があります。事実、中国の国有商業銀行の自己資本は国際金融を主業務とする中国銀行を除いて、BISの自己資本比率規制の下限8%を達成できておりません。国家が背後に控えているため、にわかに信用不安が噴出するという情況にはありませんが、金融を国有企業救済機構に変質させたことは明らかに中国の失敗でした。そのため1998年には2700億元(4.05兆円)の公的資金を注入して自己資本の充実をはかるとともに、翌1999年には四つの資産管理会社を設立して、総額1.4兆元(21兆円)の不良債権を額面で買取りました。
しかし、この買取られた不良債権は1995年の商業銀行法施行以前に発生した不良債権に限定されています。それ以前の融資は政策融資であり、国に責任があるとの理由からでした。ところが、その後も融資のかなりが不良化しています。
表9-4は東アジア各国の銀行不良債権(対貸出比)です。現在の中国の四大商業銀行不良債権は貸付けの約4分の1に相当する1.73兆元です。ただし、この数字はあくまでも公式統計であり、必ずしも信用できる数字ではありません(香港の専門家によると、不良債権比率は50%です)。
中国当局もこの銀行部門の不健全性の弊害を十分意識しており、時間がかかるにせよ、それを健全化する方向に転じています。しかし日本と同じで、その道のりは決して平坦とは言えません。
表9-4 各国銀行不良債権(対貸出比) |
|
最大 |
2002年6月 |
最大時期 |
対象 |
中国 |
45.1 |
23.4 |
1998年末 |
4大国有商銀 |
マレーシア |
21.9 |
18.6 |
1998年11月 |
全金融機関 |
フィリピン |
18.8 |
18.4 |
2001年10月 |
商業銀行 |
タイ |
47.7 |
17.7 |
1999年5月 |
全金融機関 |
インドネシア |
58.7 |
11.8 |
1999年3月 |
商業銀行 |
日本 |
8.9 |
8.9 |
2002年3月 |
預金受入銀行 |
台湾 |
8.0 |
8.0 |
2002年3月 |
商業銀行 |
韓国 |
23.7 |
3.8 |
1998年3月 |
全金融機関 |
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注) | 中国の2002年6月末計数は公式統計(日本経済新聞2002年12月5日付け)。最大値は現行不良債権1.760兆元に4資産管理公司の買い上げ分1.4兆元を加えた3.16兆元を不良債権と見なし、貸出額7兆元で割ることにより計算した。日本はリスク管理債権、マレーシア・タイは比較が可能になるように調整した。 |
資料) | 各国統計。 |