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modern chinese economy
10-5. 中国の地域格差
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


10-5-1 西部大開発
 もちろん中国政府も、格差拡大という現状を放置しているわけではありません。なかでも1999年に中国の最底辺に位置する西部地域の開発が大きく取り上げられ、2000年より「西部大開発」が始動しています。その主要な内容は(1)西部地域の定義を一部変更し(広西・内蒙古が西部に編入、その他吉林・湖北省の一部貧困県も対象とする)、幾つかのビッグ・プロジェクト(「東気西輸」、「南水北調」、「西電東送」)を立ち上げる、(2)遅れている電化や鉄道敷設を行う(青海・チベット鉄道敷設)、(3)自然体系の収奪から起こった乱獲を防ぎ、生態系の保全を行う、等です。そのため2003年までに7600億元(11.4兆円)の資金が投入されています。

 しかしこれはほんの第一歩であり、地域格差がこれで一挙に縮小すると考えるのは早計です。例えば中国と同じように大国であるアメリカにおいても、戦前期において大きな地域格差が存在しました。そして地域格差が縮小したのは第二次世界大戦終了後のことです。また、日本の地域格差縮小もやはり戦後の現象のようです。

 しかも中国では依然、地域間で莫大なインフラストラクチャー格差が存在しています(図10-6)。西部大開発によってもこの膨大なインフラ格差が一挙に縮小すると考えることは非現実的でしょう。

図10-6 中国の交通インフラ格差
図10-6 中国の交通インフラ格差
注)
図は国営鉄道営業キロ、道路、運河の三者の合計を面積で割った計数。東部=北京・天津・河北・遼寧・上海・江蘇・浙江・福建・山東・広東・海南、中部=山西・吉林・黒龍江・安徽・江西・河南・湖北・湖南、西部=内蒙古・広西を含むその他。2001年はデータの不連続性により省略した。

資料)
国家統計局工業交通統計司編「中国工業交通能源五十年統計資料匯編1949-1999」2000年、国家統計局編「中国統計年鑑」2001年。

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10-5-2 転換点の展望
 図10-7は全就業者に占める製造業就業者構成比の推移を日本、韓国、台湾、マレーシア、中国について見たものですが、この図は中国にとって一つの示唆を与えているように思われます。ここで前4ヶ国はアジアにおいて転換点通過に成功した国です。これによると、大雑把に言って「製造業就業者が全就業者の20%を越えること」が転換点通過の一応の目処のようです。残念ながら中国は、近年の国有企業を中心とする雇用調整により製造業就業者構成比は逆に低下しており、現在11.1%しかありません。これを現在の2倍の水準に引き上げることが当面の課題です。そうは言っても、この課題は非常に難しく、いずれにしても中国の格差は当面、拡大していくと見てよいでしょう。格差是正は息の長い課題と言うべきです。

図10-7 アジア各国の製造業就業者構成比(対全就業者比、%)
図10-7 アジア各国の製造業就業者構成比
資料)
各国統計。

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