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modern chinese economy
11-3. 中国の環境対策の方向
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


 最後に、今後の中国での環境対策の方向および日本が果たせる役割について私見を述べさせていただきます。

11-3-1 エンド・オブ・パイプ(EP)技術かクリーナー・プロダクション(CP)か
 まず、中国政府の抱える最初の課題は、エンド・オブ・パイプ(EP)技術かクリーナー・プロダクション(CP)かの選択でしょう。前者は対症療法的な環境対策であり、後者は根本から体質を改善するといった意味での治療法です。

 とかく発展途上国の為政者の目は、「開発」か「環境保護」かの二者択一では、どうしても「開発」の方に奪われがちです。途上国では、環境対策は最小限にとどめ、「開発してから後の洗浄」政策がしばしば主張されますが、これが得策であるとは必ずしも思えません。

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11-3-2 日本の貢献
 日本では1970年代にクリーナー・プロダクションの技術開発が進みましたが、その背景には石油ショックでの原油価格上昇と、供給制限を受けた製造業は省エネ型の設備投資を行わなければ生産が継続できないという避けられない事情がありました。ちょうどその当時は高度成長期に増強した設備の更新時期にも当たっていたというタイミング的な幸運も働きました。

 中国企業の多くが資金難にあえいでいる状況である以上、クリーナー・プロダクションへ向けての先進国(特に日本)との資金協力の枠組みが必要だとおもいます。これに関連した日本国内での課題といえば、炭素税導入等によって自国での温暖化ガスの排出を削減する一方で、一定のCDMやJI用の資金を確保することでしょう。同時に納税者に対してはCDMやJIによる温暖化ガス削減が結果的には経済的な削減方法であることへの理解を求めることも不可欠になるとおもいます。

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11-3-3 政府のリーダーシップと企業の意識向上
 最後の点は、政府のリーダーシップと企業・市民の意識向上でしょう。これがないことには、どんな政策も実効をあげません。途上国での環境対策が進まない理由の一つとして、国民や企業家が環境問題の重大さを認識していないことがあげられます。国土は国民全体のものとして責任を持ち、後世世代に「環境汚染」という負の遺産を残さないという覚悟が求められます。

 日本はこうした意味では、多くの人的被害も出したという,苦い経験を持っています。中国政府はこうした貴重な経験を利用しない手はないし、反対に日本側はこうした経験を途上国に伝える義務があると考えます。

 1991年7月には東京で「エコ・アジア会議」が開催され、そこで環境庁は「日本の公害経験」レポート(地球環境経済研究会編著(1991))を提出するなど、既にこうした努力がなされています。中国政府と共同して、こうした広報活動を地道に継続的に行うことが必要でしょう。

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※参考文献
井村秀文・勝原健編著(1995)『中国の環境問題』、東洋経済新報社。
地球環境経済研究会編著(1991)『日本の公害経験―環境に配慮しない経済の不経済―』、合同出版。
日本エネルギー経済研究所編『エネルギー・経済統計要覧』各年版、省エネルギーセンター。
日本環境会議編(1997)『アジアの環境白書』、東洋経済新報社。
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