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modern chinese economy
11-2. 中国環境の実態
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


11-2-1 中国のエネルギー効率
 表11-1では、日米中の実質GDPとエネルギー原単位を比較しました。価格体系の異なる経済のGDPを単純に為替レートで換算し比較するのは危険ですが、この場合は中国のエネルギー効率はアメリカの1/3程度であり、日本の1/9程度である。効率改善の余地は大きいといえます。

 このことは、中国でエネルギー効率を改善するための限界費用は日本に比較して小さいであろうと予想され、後述のCDM(クリーン開発メカニズム)と関連します。

 もっとも、購買力平価で評価すると、その差は縮まりますが、それでも、日本のエネルギー効率は中国を上回ります。

表11-1 最終エネルギー効率の比較
  1971 1980 1990 2000
アメリカ 実質GDP 3,583 4,772 6,521 9,009
エネルギー消費量 1,236 1,320 1,306 1,499
エネルギー原単位 0.345 0.277 0.200 0.166
中国 実質GDP 104 164 396 1040
エネルギー消費量 185 313 482 559
エネルギー原単位 1.779 1.909 1.217 0.538
日本 実質GDP 2,236 3,304 4,936 5,688
エネルギー消費量 199 233 294 347
エネルギー原単位 0.089 0.071 0.060 0.061
実質GDP:1995年,10億アメリカドル
エネルギー消費量:100万TOE(TOE=107Kcal)
エネルギー原単位:エネルギー消費量/実質GDP
資料)日本エネルギー経済研究所編『エネルギー・経済統計要覧2003』省エネルギーセンター

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11-2-2 中国の大気汚染問題
 中国の大気汚染問題での関心事の1つは酸性雨です。酸性雨とはその名のとおり強い酸性を帯びた降雨をさします。

 そのメカニズムを説明しましょう。化石燃料の燃焼と共に、二酸化硫黄・二酸化窒素等の環境汚染物質が排出されます。これらは光化学反応でそれぞれ硫酸と硝酸に変化し、硫酸は水蒸気と共に凝縮して硫酸ミスト(光化学スモッグの原因)として、硝酸はガス体で空中に浮遊します。これらが降雨と共に地上に降下したものが酸性雨です。ただし、土壌には、アンモニア・カルシウム・マグネシウム等のアルカリ性物質があり、空気中にも浮遊しています。これら酸性物質とアルカリ性物質両者の相対量で降雨のpH(酸性度)が決まります。

 表11-2に日米中のエネルギー源の消費シェアを示しました。中国のエネルギー消費は日米に比較して化石燃料依存度が高いことがわかります。化石燃料消費が従来型の大気汚染公害および酸性雨の主原因ですが、化石燃料消費の中でも中国では石炭の比重が大きいことが問題です。石炭のシェアが大きいということは、浮遊粒子の増加や硫黄酸化物等の有害物質排出の増加を意味するからです。

表11-2 2000年での各国の一次エネルギー消費
  合計 石炭 石油 天然ガス 化石燃料 原子力 水力
アメリカ 2,300 542 888 545 1,975 208 21.4
100% 24% 39% 24% 86% 9% 1%
中国 928 656 222 28 906 4 19.1
100% 71% 24% 3% 98% 0% 2%
日本 525 94 265 65 424 84 7.5
100% 18% 50% 12% 81% 16% 1%
全世界 9,043 2,431 3,468 2,101 8,000 676 226
100% 27% 38% 23% 88% 7% 2%
単位は100万TOE(TOE=107Kcal )、下段は構成比。
資料)日本エネルギー経済研究所編『エネルギー・経済統計要覧2003』省エネルギーセンター

 表11-3には、東京、北京、上海、マニラでの、浮遊粒子、二酸化硫黄、二酸化窒素の排出状況を示します。中国の都市での排出が際立って多く、東京に比較して数十倍の水準に達していることがわかります。

表11-3 アジアの都市の大気汚染物質排出量
  浮遊粒子 二酸化硫黄 二酸化窒素
東京 11,830 12,900 67,600
北京 278,706 382,925 NA
上海 185,643 488,564 NA
マニラ 69,100 148,400 119,000
単位はトン、1995年の数字。
資料)アジア環境会議『アジアの環境白書1997/98』東洋経済新報社

 ところで、酸性雨の降雨問題は、本来汚染源から100キロ以内の局地的環境問題ですが、大気高層の気流に乗った場合、数千キロの距離を酸性物質が移動するといわれています。例えば、中国東北部の汚染物質が韓国や日本に影響しているといわれています。実際、日本の場合、南風の吹く夏季は東京・大阪をはじめとする太平洋岸の工業地区に局地的酸性雨が観測されますが、北西の季節風の吹く冬季では日本海側海岸地方で広く酸性雨が観測され、中国からの越境汚染の可能性を窺わせます。

 既に中国では、通産省の援助により、火力発電所へ最新鋭の脱硫装置がいくつか設置されています。しかし、設置そのものの価格面とランニング・コストで問題があり、稼働率は低いと聞きます。

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11-2-3 二酸化炭素排出削減のための中日協力
 中国の環境問題が日本との関連で注目されるのは、地球温暖化対策です。まず、地球の温暖化問題について概説します。一部ではまだ異存があるものの、二酸化炭素(CO2)の増加による温室効果は科学的に解明されたといって良いでしょう。1

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が1990年に出した第1次報告では、このままの上昇傾向が続けば、21世紀中に3度程度の気温上昇が予測されています。地球は何億年もかかって、空気中のCO2濃度を下げてきました。一部のCO2は海水に溶け込んだのですが、空気中のCO2濃度の低下の多くは植物とそれを食べた動物が空気中の炭素を固定したためです。そのおかげで、地球は冷えて、現在われわれが生存できる温度になったわけです。そして、その副産物として残ったものが、固定された炭素による石油と石炭というしくみです。

 現在、人類はそれらをエネルギーとして利用することを発見し、何億年もかかって地球が固定した炭素をわすが数百年で大気に戻しているのです。つまり,地球がそれ自身を冷やしてきた作業の逆を人間が起こっているのです。これが地球温暖化のメカニズムです。

 1997年に京都で開かれたCOP3「気候変動枠組み条約第3回締結国会議」(通称、地球温暖化防止京都会議)で採択された「京都議定書」では、先進各国は、温暖化ガス(CO2が中心)の2008年から2012年の平均排出量を、1990年に比較して平均5%削減することが取り決められました。日本は先進国平均を上回る6%の削減を公約したが、実はこの実現は国内の努力だけではほとんど無理であることが知られています。他の国について多かれ少なかれ柔軟性を求める声が起こり、同会議で提案されたのが、先進国と発展途上国の間の「CDM(クリーン開発メカニズム)」、先進国間の「JI(共同実施)」といわれる方法です。問題は地球全体でのCO2濃度であるから、削減される場所はどこでもよく、できるだけコストのかからない方法で削減するのが合理的であるという発想から生まれたものです。

図11-1 CDMとJIの違い
図11-1 CDMとJIの違い

 図11-1には、CDMとJIの違いを改めて示した。CDM対象国とは、条約に添付されている付属書I国以外の国です。

 具体的には、オーストラリア、オーストリア、ベラルーシ、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、EU、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イタリア、日本、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、スペイン、スウェーデン、スロバキア、スイス、トルコ、ウクライナ、イギリス、アメリカ以外の国です。

 JI対象の国とは、上記の国のうち、市場経済への移行過程にある国です。具体的には、ベラルーシ、ブルガリア、チェコ、エストニア、ポーランド、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、ロシア、スロバキア、ウクライナの各国です。

図11-2 CDMによる二酸化炭素削減効果
図11-2 CDMによる二酸化炭素削減効果

 図11-2を見てください。横軸には日本が公約した二酸化炭素削減量をとり、縦軸にはCO2のための限界費用をとろう。左下角は日本の原点で、右上がりに描かれている線 J0J1 は、日本が国内でCO2を削減する場合の限界費用を示す。したがって、公約したCO2削減量をすべて国内で行うためには、台形 OJJ0J1OC の面積だけの総費用がかかります。しかし、中国での削減コストは日本より低いと考えられ(C0C1 が中国での限界費用線)るので、公約した削減量の一部、より具体的には AOC だけ中国国内で削減すれば、CO2削減のための費用は最小化できることになります。日本としては、三角形 EC0J1 分だけコストが削減されたことになり、この部分を援助資金として供与し AOC 分だけCO2を中国から購入することは経済的に見合うということになります。このシステムが日本と中国とのCDMです。

 実例としては、通産省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は北京の首鋼総公司製鉄所をはじめとして、日中共同実施の試行を行っています。しかし、CDMについては様々な解決すべき問題があります。まず第1に、中国をはじめとする発展途上国は「地球温暖化は先進国にほとんどの責任があるのだから、その解決に発展途上国を巻き込むべきではない」という立場を崩していない。つまり、上記の日中共同事業は同床異夢的な事業となる可能性もある。どのような事業を共同実施とするかその費用負担・削減実績の配分については未確定の部分が多く、現在検討中です。

 とはいえ、日本一国内では、京都議定書の基準を達成できないことがほとんど明らかな今、環境省では地方公共団体や非営利組織(NGO)に対して、「温暖化対策クリーン開発メカニズム事業調査」を実施しており、将来CDMやJIにつながる事業を発掘したい考えのようです。

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  1. しかし、過去10万年に20回以上の気温の急激な変化(数十年で5度以上の変化)があったという研究もある(日経新聞1998年3月29日)。この研究結果を考慮すれば、20世紀の気温上昇は、これまでの気温上昇と比較して統計的に特異な変化であるとは言えないとの意見も根強い。1997年の京都温暖化防止会議でもアメリカ(議会と産業界)は二酸化炭素排出削減に反発。議会での批准は不可能であろうとの評判。「地球温暖化問題」を考える上での問題は、それが環境問題としてではなく経済問題として論じられることである。
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