経営財務論 |
企業の株式が新規に店頭登録され一般に公開される時、その株式の市場価格は通常、そもそもの出資額をはるかに上回ります。そのため、創業者のように公開前から株式を所有していた株主には大きな利得が生じることになり、これを創業者利潤と呼びます。このような利得がなぜ発生するかについて、簡単な数値を使って説明します。 |
1億円の自己資金を投資して何らかの事業を始める企業家を想定します。彼はこの資金で生産設備等の各種の資産を購入し、会社を設立します。事業は順調で、毎年2千万円の利益を生み出しているとします。さて、この会社の価値をどのように考えたらいいでしょうか?。会社の資産そのものは1億円ですが、これは毎年2千万円の利益を生み出す1億円ですから、この観点で価値を評価するべきです。 |
では、毎年2千万円の利益を生みだすものの価値をどのように考えるべきでしょうか?話を簡単にするためにこの事業にはリスクが無いことにし、毎年確実に2千万円の利益が生み出されるとします。確実な利益を生み出す投資先には銀行預金が考えられます。銀行預金が利益を生むというと変な感じがしますが、預金することによって得られる利子を利益と考えると毎年確実な利益をもたらす投資です。毎年確実な2千万円の利益を生み出す会社を持っていることは、毎年2千万円の利子を生み出す銀行預金をしていることと同じ事になります。つまり、毎年2千万円の利子を生み出す銀行預金の預金額は利子率を5%と仮定すると4億円になります。ですから、この会社の価値も4億円と考えられ、3億円の創業者利潤が生じていることになります。 |
創業者利潤は、企業家が利子率以上の利益率で事業を運営すること、つまり企業家の事業機会開発能力や運営能力によって生じるものです。ですから、事業を始めたときから創業者利潤は生じているはずですが、実現するのは株式が公開され、自由に売買されることが可能になった時です。つまり、価値の高い会社になっていても、それが自由にお金に変えられければ、その価値は本当に実現したことにはなりません。銀行預金と対比すると、毎年2千円の利益を生む4億円の銀行預金は自由に解約して、お金にすることができます。しかし、毎年2千万円の利益を生み出す会社に投資した資本は、株式が公開されるまでは簡単にお金に変えることができません。この時点ではこの会社の価値は4億円よりも低いはずです。株式の公開によって出資した資本を自由にお金にできるようになって、初めてこの会社は銀行預金と同じ4億円の価値になり、創業者利潤が実現するのです。 |
(馬場 大治) |