インサイダー取引・日本版SEC 証券論

 株式市場に多くの投資家が参入し、株式の取引が活発に行われることは、企業の資本市場からの資本調達を円滑にし、経済全体の発展のために非常に重要なことです。そのためには、投資家が安心して参入できるよう公正な取引が行われる必要があります。証券取引法等の法律で,不正な取引が行われないように、各種のルールを設けています。

 そのルールの一つとして、投資家の投資判断に必要な情報を企業が開示するディスクロージャーの徹底 ディスクロージャー]がありますが、他にも各種の不正な市場取引を禁止するルールがあります。例えば、株価を操作するために間違った情報や未確認のうわさを流すことが許されれば、一般投資家は何を信じて投資してよいのかわからなくなり、株式市場から離れてしまいます。したがって、このような「風説の流布」といわれる行為は、禁止されています。また企業内部にいる者は、その企業について一般投資家が知ることがない情報を持っています。このような内部者が企業の内部情報を利用して、自社株を売買すると非常に大きな利益を獲得できる可能性があります。このような内部者取引(=インサイダー取引)も禁止され、行われた場合、3年以上の懲役、300万円以下の罰金という厳しい処罰があります。

 禁止されている不正な株式取引を監視する行政委員会として、1992年に証券取引等監視委員会が発足しました。この委員会は各種の不正取引をチェックし、強制調査で司法当局に違法行為を告発したり、行政処分を大蔵省に勧告したりするなどの権限を持ち、証券取引に関する警察の役割を果たしています。これは長い伝統を持つアメリカの証券取引委員会(SEC)に設立目的や権限が似ていることから、日本版SECと呼ばれています。日本版SECは、1998年6月までの7年間で告発が19件、勧告が81件と活発に活動しています。しかし、本家のアメリカのSECと比べ、その規模や権限の点でまだまだ不十分といわれています。

(馬場 大治)