社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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2-1 面接法とは何だろうか
2-1-1 質的調査とはどのような調査なのか


 質的調査とは、何らかの一定の社会的な体験を有している(あるいは有した)少数の限られた人びと(標本あるいは被調査者)を対象にする社会調査であって、いわゆるアンケート調査など量的調査のような定まった形式をもたずに、状況に応じて臨機応変に展開していく自由な内容を有した社会調査のことである。量的調査のように得られたデータを計量的に処理し、統計学的分析を試みるのではなく、むしろ洞察的な解釈によって意味連関的に分析する社会調査である。
 何らかの一定の社会的体験を有している(あるいは有した)人びとは、その体験の意味をそれぞれ自分なりに解釈し、自分なりのイメージやストーリーを作って意味づけている場合が少なくない。もちろん経験的には、そうした体験を有していても断片的なものでしかなく、明確なイメージやストーリーなど何も持ち合わせていない場合も少なくない。
 質的調査では、たとえ断片的であっても、そうしたイメージやストーリーを面接や観察などをとおした自由な形式の質問や洞察力などによって引き出し、その他の被調査者のイメージやストリーと重ね合わせたり、あるいは比較したりすることによって、体験されている(あるいは体験された)事象の本質を抽出し、その社会的意味を調査者の認識や洞察に応じて解釈していく社会調査である。
 質的調査は、量的調査とは異なって、少数の事例(ケース)についてさまざまな側面を全体的および統合的に把握し、調査者のすぐれた洞察力をもって一般化して解釈する調査方法である。このような質的調査には、量的調査と比べて、以下のような長所および短所がある。
質的調査の長所
  1. 少数の被調査者の体験をインテンシヴ(集中的かつ徹底的)に探究することによって調査者がその体験を追体験して、その体験や事象の深層まで理解することが可能であること。
  2. 形式的かつ画一的な、通り一遍の質問や限定された回答の選択肢を用いてのアンケート調査ではなしに、調査対象となっている事象や事実の多くの側面を多元的に、そして全体関連的に把握することが可能であること。
  3. 調査者の主観的かつ価値判断的な認識や洞察力をとおして事象のより根源的な把握がなされ、ときに平坦で平凡な分析になりがちな事象の分析をより洞察的かつ普遍的に一般化することが可能であること。
  4. 時間を遡って順を追って質問することができるため、事象の移り変わりなど変化のプロセスと変化の因果関係をダイナミックに把握することが可能であること。
質的調査の短所
  1. 被調査者(調査対象者)が具体的にいかなる母集団を代表しているのかを理論的に検討することができないこと。
  2. 調査データの収集の成否が調査者(あるいは調査員)の調査能力や調査経験に大きく左右されてしまうこと。
  3. 調査活動を実施するにあたって、より多くの時間と多くの費用がかかり、得られたデータの分析においても計量的処理が困難であること。
  4. 質的調査によって一般化された理論的説明を反復して検証し、客観的に普遍化させる手続きには多くの困難が伴い、不可能に近いこと。

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