社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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2-2 面接調査を行うにあたって
2-2-6 面接調査の基本手順


 実際の面接では、何段階かに渡っての繰り返しの面接が行なわれて、一つのインタビュー調査が成立することになる。面接調査の難しさは、数多くの調査経験によって克服されていくものであるが、基本手順にしたがって順を追ってインタビュー調査を進めていくことがその第一の秘訣である。この面接調査では相手(被調査者)があることだから、必ずしもマニュアルどおりにはいかないのが現実である。
 面接技術の機微については、実際に経験しないとなかなか理解できないものであるが、一般的なインタビュー調査の実施上の留意点について大まかにまとめておくと、以下のとおりである。
 まず第一に、調査者は、一定の調査目的にしたがって調査対象者にたいして面接にあたるわけであるが、被調査者は、面接に応じることによって何か特定の利益があるわけではない。まったく好意で情報を提供してくれることになることを十分に認識しておかなければならない。調査対象者と面接のアポイントメントをとる段階から、調査実施の主体(誰が行なうのか)、調査目的(何のために)を明確に説明して、調査対象者(どのようにして選ばれたのか)に調査の主旨(その人が有している情報の価値)を理解してもらわなければならない。そしてインタビューでは、回答の自由度、つまり答えやすいものに限って話してもらえれば良いということを説明することも重要である。まずは警戒心を抱かせないようにすることである。
 第二に、面接調査では基本的にはフィールド・ノートに要点をメモしていく。しかし、そのデータをさらに有効に活用するためには、面接中のやりとりの録音やその模様の録画があることが望ましい。できるだけICレコーダー(録音)やカメラやビデオ(撮影)の使用についての承諾が得られるようにする。面接をはじめる際に承諾を得るようにする。データの公表や管理については責任をもつことや、公表に際しては改めて被面接者にその都度、許諾を得るようにすることを理解してもらっておくことが重要である。それは被調査者の安心ためであると同時に、面接場面での録音や録画を承諾してもらえやすいようにするためでもある。
 第三に、インタビューは相手があって成立するものである。被面接者のその場の気分や感情の動き、あるいは面接の進捗状況によって質問項目(チェック・リスト)どおりには運ばないものである。面接を続けていくうちに、じょじょに被面接者も場に慣れてきて、リラックスして語りはじめてくれ場合が普通である。そうなれば、面接者と被面接者のあいだにラポールが形成され、いよいよ調査活動にとって好都合になる。その段階に到達するまで臨機応変に質問項目を再構成しながら、インタビュー調査を成立させるようにしなければならない。
 また第四に、面接場面では面接者による刺激の与え方で被面接者の反応はいろいろと変化するものである。調査者はそれらの反応を受け止めて、事実とつき合わせながら確認していく作業を怠らないようにする必要がある。被面接者が回答に詰まった場合には、聞き方を変えてみたり、あとでまたお話くださいと言って、時間を置いたのちに忘れないようにして「ところで先ほどの」と切り出すようにするのもよい。それでも反応が得られないようであれば、一つの質問に固執せずにつぎの話題に切り替えていく柔軟な姿勢が求められる。
 第五に、インタビュー調査は一回で終了することもあれば、数回に分けて行なうこともあり、調査対象者とのラポールの形成とその維持が重要な課題である。ただラポールが重要だと考えすぎて、被面接者との距離を誤ったりすると「適度な距離をおいた関与」あるいは「客観性を失わないラポール」のスタンスを保持できなくなり、いわゆる馴れ馴れしい態度の「オーバー・ラポール(対象者に同一化しすぎること)」にならないとも限らない。この点には十分に注意しなければならない。
 第六に、ラポールが形成されると、被面接者と面接者は、かなり親密になっており、それまでは面接者の質問に答えるのみという形であったものが、むしろ被面接者が積極的に語り始めることになる。被面接者が自発的に語り始めてくれるようになれば、その面接調査は、ほぼ成功に向かっていると言えよう。だからといって、油断は大敵である。調査者の洞察力をもっての発話への刺激の効果がいよいよ試されることになる。
 第七に、ここまでくれば調査者は、積極的に本題に入って、質問していくことになる。詳しく知りたい点について質問をし、インタビューをすすめていく。積極的な質問といっても、基本的には非指示的面接法であって、第一に傾聴を旨としなくてはいけない。ということは、被面接者の反応に応じて発話の状況をみて、能動的に質問したり共感的かつ受容的に応じたりしながら、質問構成を配慮してインタビューを進めていくことが重要となる。この段階では、まさに面接者の面接能力が問われることになる。
 第八に、この段階では、被面接者も面接者の深い洞察力に促されて、自分のイメージや考えていた内容がますますクリアになったり、有意義な意義づけを得て蘇ったりしてきて、改めて自己同一性の確認の機会を得ることになったりする。そうなれば、ますますこの面接の意義を重視することになり、それまで曖昧であった記憶や考えを面接者に語ることの価値を見出すようになってくる。優れた面接者は、調査目的を達成するのに被面接者の大きな協力を支えながら確保するものである。
 第九に、いよいよ今回の面接の終盤的な段階にいたり、面接者は、被面接者の回答や発話の整理や内容の確認の作業をすることになる。内容の不明な点やもう少し確認しておいた方が良い点について、しっかりと確認しておく。また、被面接者に何か言い忘れたことは無いのかも確認しておく。もちろん、あとで思いついた場合には電話や電子メールなどによる連絡も歓迎するということも伝えておくのもよい。この段階で、ほぼ予定した面接時間が一杯になっていることが望ましい。
 第十に、最後に面接を終了させる段階では、被面接者の協力への感謝を述べ、場合によっては次回の面接についての約束をしっかりと取っておく。もちろん、この回だけで面接が終了する場合もある。そのようなときには、これでラポールの関係も終了するわけではあるが、できれば良好な人間関係は維持したものである。互いによい経験になったことを確認できれば、後になって忘れていたことを聴きだす際にも有効である。再度、調査もれなどの無いように確認して、その場を去るようにする。

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