社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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2-2 面接調査を行うにあたって
2-2-8 深層面接法のマニュアル


 面接調査法には、個人を対象にする場合だけでなく、集団を対象にするグループ面接法などがあるが、ここで論じる深層面接法は、もっぱら個人あるいは個人的事例を対象にして、どちらかというとデータ収集のみを目的とする聞き取り調査とはちがって、相談や治療などを目的にして、そのためにデータを収集する調査方法である。したがって、データ収集そのものが目的ではなく、データ収集は手段である。
 面接調査法にかぎらず、社会調査によってデータを収集するのは単にデータを収集することだけが目的ではない。政策や方針の決定のために必要なデータを収集するのであるが、深層面接法は、多くの場合が、直接的に相談や治療が目的である場合がふつうである。たとえば、精神的悩みの治療が行われる場合の治療面接がそれに当たる。また、家庭裁判所などにおいて非行少年の事例に対して、あるいは離婚の事例に対して審判が下されるための資料収集のための面接調査は、深層面接法が応用されることになる。
 この場合、面接を受ける本人自身が面接される内容の核心に十分に気づいていないこと、あるいは精神的に混乱していて十分に整理がつかなくて、正しい応答ができない場合などに有効な方法となる。以下、しばらく深層面接法の要点を紹介しておくことにしたい。
 深層面接は、被面接者の心のより深層に向かって面接を行なうという意味で、本人が、容易に語らない、あるいは語れない部分を面接技法によって接近していくことになる。この場合、つぎのような点が重視される。
[1] 非言語的コミュニケーションを重視すること。
 これは話し手の外見的な容姿や語り口調や目線や表情や身振りや態度などを重要な情報源にして感得していくことが重要となる。言語化された客観的な内容よりも暗示されている情報に敏感になることである。
[2] 話し手の心理に十分に注意を払うこと。
 このためには、こちらからなるべく話さずに話し手の語りに耳を傾けるようにすることであり、傾聴の練習が重要となる。話しての感情の明確化などを行ないながら、共感的に理解しようとすることが大切である。とくに語りたがらないことを聞き出そうとする場合には話し手の感情に共感的であることは必須である。
[3] 話し手と共に問題あるいは悩みの解決に当たっているという態度が不可欠。
 深層面接の場合には、ただ学習する者といった姿勢で臨むだけでは限界がある。やはり積極的に関わり、ときには向かい合うというよりは、むしろ共に手を携えて協力するといった態度が期待される。観察者ではなく、一時的ではあるが人生のコンヴォイとなる必要も出てくる。コンヴォイは、ときに道連れと訳されたりする。

○基本的に聞き手は、傾聴に徹することが重要である。それには話し手の言葉に「オオム返し」に応じるという作業が重要である。話し手が「何々だ」といえば、「何々なんですね」と、応じていくようにする。「何々なんですか」などと、質問しないことである。話してのことばに、確認のために、「〜〜なんですね」と応じるだけである。心がこもった形の「オオム返し」が重要である。
○感情の明確化・・・場合によっては、話し相手が混乱をしていて、どのように回答すればよいのか困惑したり、感情的になってしまっているとき、ゆっくり傾聴することによって感情をほぐしてあげて、感情の明確化という技法を用いる。それは話し手の言おうとしている気持ちを汲み取って、聞き手の言葉でフィードバックする、つまり言い換えてあげることが必要になる。この作業によって話しての感情の明確化が進むことになる。
○過去の話したくないことを聞き出すためには、高度なテクニックが必要となる。そこには一種の人間的発達を促すヒューマンケアのメカニズムが作用することになる。このようなレベルの深層面接では、互いが人間的に成長していっていることを実感することになる。
○深層面接は、その意味では、個別事例のより深層の次元の心の機微にかかわる事象を扱う際の高度な調査技法ということになる。
 最後に、深層面接法の特徴をいくらか整理しておきたい。
[1]まず調査者(面接者)と被調査者(被面接者)との面接のプロセスは、お互いの人格と人格とが相互に刺激し、反応し、影響しあっていく「相互作用のプロセス」であるということである。
[2]そこで面接に当たっては、まず基本として考えられなければならないことは、調査者と被調査者とのあいだに好ましい感情が成立しなければ、目的は達成され得ないということである。
[3]つまりラポールを好ましい状態に維持していくということが重要である。
[4]面接のあいだは、許容的および受容的な態度で臨み、被調査者の自由な表現を保障して、批判したり非難したりしないことが重要である。逆の場合には、被調査者が依存的になってしまったり、また自己防衛的になってしまったりしやすいからである。
[5]こうしたことに準拠しながら、被調査者の側の内面的な準拠枠から理解していくようにすることが大切である。つまり、相手の立場で理解していくということである。
[6]そして、調査者は単に被調査者(相手)が話したがっていることにのみ耳を傾けるだけでなく、話したがらないこと、あるいは助けなしには話すことのできないことにも、常に耳を傾けるようにしなければならない。(傾聴の原理)
[7]面接者は、嬉しかったこと、悲しかったこと、悔しかったことなど、心理的文脈をインデックスにして個人的な関係を追求していくことが重要である。
[8]さらに個人的関係を社会的文脈、たとえばライフヒストリーや家族あるいは時代背景などとともに理解することが大切である。

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