社会調査工房オンライン-社会調査の方法
←→
4-4いかに視覚イメージを読み解くか――第1次世界大戦期、米国プロパガンダポスターを例に U.分析篇:WWIポスターに見るジェンダーの表象
WWIポスターに描かれた<女>の表象――女性イメージの分類と役割
4-4-5 戦争支援職(女性看護師以外)


 戦場に関わる女性は、女性看護師だけではない。若い男性兵士から「おやまあ、女の子だぜ!(Oh, Boy! That’s the Girl!)」【#309】と指差されているのは、にこやかにドーナツを配る救世軍の女性である。若い男性兵士に活力を与えるのは、かじりかけのドーナツではなく、山盛りのドーナツの皿を運ぶ若い女性の方である。この図像と「彼女が仕事を続けられるようにしてやってくれ」と呼びかける文字テクストに矛盾はない。
 だが、現地で通信士として働く女性を描いたYWCAのポスター「現地にいるわれらの女子を支援しましょう」【#323】(http://archives.iii.u-tokyo.ac.jp/search/detailresult/id/436)では、女性の表情はにこやかにドーナツを配る救世軍の女性のそれや、のちに見るセクシーガールとは少し異なっている。彼女は窓で仕切られた部屋の内側に配置され、外の男性兵士たちや戦場とは空間的にも隔てられるなど、あくまで男性領域を脅かさない戦争支援職であることを強調し、男女のジェンダー規範を忠実に守っている。しかし、補助的な労働にとどまっているとは言え、前線でその任務をテキパキと遂行する姿はセクシーさのみが求められる「女の子」のイメージではなく、かと言って男性兵士たちと同じように外の激戦地で働くことも許されていない。この齟齬は家父長制社会の軍隊に従事する女性表象を考える場合、たえず現れる矛盾である。

#309 「なんとまあ、女の子じゃないか!救世軍の彼女がその仕事を続けられるようにしてやってくれ」[United War Work Campaign]1918年11月11〜18日、米国

 佐藤文香の研究によれば、アメリカにおける女性の軍隊への参入は、1901年陸軍に看護部隊が設立されたときから始まる。1908年には海軍にも看護部隊が作られ、第1次世界大戦期には陸軍看護部隊は2万人以上、海軍は1400人を擁するようになっていた。看護職から始まった軍隊内への女性の参入は、1917年には海軍で女性事務系下士官が採用され200人の女性海軍予備役が誕生するなど、看護職以外の支援職にも進出しその職域を広めていった。そして第1次世界大戦期には、「三万四千人もの女性たちが従軍女性看護師、洗濯や食事の支度、店員、電話交換手などの職種に就いていた」が、「彼女たちの身分は軍人ではなく契約労働者であり、戦争が終わると除隊させられ軍隊には看護部隊のみが残った」という10
 このように20世紀初頭の看護職採用から始まった軍隊への女性の参入は、第1次世界大戦において看護職以外の支援職に進出し、第2次世界大戦ではさらに職域を拡大、1960年代半ばには幹部養成学校の開放によって階層分化が促進され、湾岸戦争では前線で戦う女性兵士がメディアで盛んに喧伝されるに至ったのである11
 第1次世界大戦では、合衆国は19ヶ月間だけしか戦争に参加しなかったが、男たちの戦場への赴任や移民の減少などによって男子の労働力が16パーセント減少した。これらの大幅に奪われた労働力を埋め銃後を引き締めるために、女性たちを動員するポスターが生まれた。


10 佐藤文香「日米の女性兵士をめぐるジェンダー・イデオロギーの変遷――防衛/軍事組織の人事政策を中心に」『女性学』日本女性学会、1999年vol.7、新水社、p.135. そのほか、軍隊とジェンダーを考えるとき、次の文献を参照せよ。佐藤文香『軍事組織とジェンダー』慶応義塾大学出版会、2004年。
11 戦争と女性表象や女性兵士についてのジェンダーの視点からの考察は下記も参照せよ。
◇佐々木陽子『総力戦と女性兵士』青弓社、2001年
◇小林美香『写真を<読む>視点』青弓社、2005年

←→
copyright(c)2004 Konan University All Rights Reserved.