4-4 | いかに視覚イメージを読み解くか――第1次世界大戦期、米国プロパガンダポスターを例に U.分析篇:WWIポスターに見るジェンダーの表象 |
戦場に関わる女性は、女性看護師だけではない。若い男性兵士から「おやまあ、女の子だぜ!(Oh, Boy! That’s the Girl!)」【#309】と指差されているのは、にこやかにドーナツを配る救世軍の女性である。若い男性兵士に活力を与えるのは、かじりかけのドーナツではなく、山盛りのドーナツの皿を運ぶ若い女性の方である。この図像と「彼女が仕事を続けられるようにしてやってくれ」と呼びかける文字テクストに矛盾はない。
#309 「なんとまあ、女の子じゃないか!救世軍の彼女がその仕事を続けられるようにしてやってくれ」[United War Work Campaign]1918年11月11〜18日、米国
佐藤文香の研究によれば、アメリカにおける女性の軍隊への参入は、1901年陸軍に看護部隊が設立されたときから始まる。1908年には海軍にも看護部隊が作られ、第1次世界大戦期には陸軍看護部隊は2万人以上、海軍は1400人を擁するようになっていた。看護職から始まった軍隊内への女性の参入は、1917年には海軍で女性事務系下士官が採用され200人の女性海軍予備役が誕生するなど、看護職以外の支援職にも進出しその職域を広めていった。そして第1次世界大戦期には、「三万四千人もの女性たちが従軍女性看護師、洗濯や食事の支度、店員、電話交換手などの職種に就いていた」が、「彼女たちの身分は軍人ではなく契約労働者であり、戦争が終わると除隊させられ軍隊には看護部隊のみが残った」という10。
10 佐藤文香「日米の女性兵士をめぐるジェンダー・イデオロギーの変遷――防衛/軍事組織の人事政策を中心に」『女性学』日本女性学会、1999年vol.7、新水社、p.135. そのほか、軍隊とジェンダーを考えるとき、次の文献を参照せよ。佐藤文香『軍事組織とジェンダー』慶応義塾大学出版会、2004年。
11 戦争と女性表象や女性兵士についてのジェンダーの視点からの考察は下記も参照せよ。 ◇佐々木陽子『総力戦と女性兵士』青弓社、2001年 ◇小林美香『写真を<読む>視点』青弓社、2005年 |