社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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4-4いかに視覚イメージを読み解くか――第1次世界大戦期、米国プロパガンダポスターを例に U.分析篇:WWIポスターに見るジェンダーの表象
WWIポスターに描かれた<女>の表象――女性イメージの分類と役割
4-4-6 銃後の女性労働者


 「すべての戦士の後ろには女性労働者」というテクストがついたポスターでは、ハンマーや道具を持つ様々な職種の女性の集団が、大河のように延々と連なり整然と並んで行進し、銃後の労働に従事せよと、女たちに呼びかけている【#324】。のちの第2次世界大戦で銃後のシンボルとなるロージー・ザ・リベッタのようなイコンは、第1次世界大戦時のアメリカのポスターには見出すことが出来ないが、この頃、戦争を支える銃後の女性労働は明確に視覚化されたと言えるだろう。

#324 「全ての戦士の後ろには女性労働者」Ernest Hamlin Baker、制作年不明、米国

 女性は工場労働者として最新鋭の飛行機や爆弾を作り銃後を支えるが【#327】(http://archives.iii.u-tokyo.ac.jp/search/detailresult/id/127)、これはあくまで戦争にでかけた男性にかわる臨時の代替労働である。戦争が終われば、彼女たちはすぐさま制服を脱いで家庭に戻り、戦場から帰還した夫を頼らなくてはならなかった。

Think!
⇒ 1919年に米国で制作された「家庭と祖国のために」【#73】は、勝利自由公債の購入を勧めるポスターである。画面には、戦場から帰還したばかりの制服姿の兵士が、男の子と妻を抱きかかえた姿が描かれているが、男の首からぶら下がっている鉄兜は何なのだろうか? 誰の鉄兜なのか? 何を意味しているのだろうか?
#73 「家庭と祖国のために」A. Everittorr、1919年、米国

 第1次世界大戦が終わった直後に制作された「家庭と祖国のために」には、戦場から祖国に戻ったばかりの兵士と息子、妻が描かれている。すがるように夫を見上げる妻にはもはや家庭以外に居場所はなく、全ては戦争前の平和な家庭生活に戻ったかに見える。だが仔細に眺めてみれば、夫が首から下げる鉄兜には銃弾が貫通した大きな穴があいている。この鉄兜は、殺した敵の生首の代替なのである12。いかにも幸せそうなアメリカン・ファミリーが、何によって支えられているのかをあらわす恐ろしい幸福の図像である。

 このように、第1次世界大戦期のアメリカ合衆国ポスターにおける主な女性の役割は、第1に擬人化された国家であり、自由と正義の象徴であり、第2に守り助ける対象であり、かつ犠牲者でもあり、第3に傷ついた男を癒し励まし、第4に男にかわって銃後の労働を担うことであった。では、類型化した最後の「セクシーガール」の図像群を次に分析してみよう。


12 この「家庭と祖国のために」については、2006年6月の東大デジタルアーカイブ公開記念シンポジウムで取り上げられ、兵士の首からぶらさがっている鉄兜に弾丸の貫通した跡があることが指摘された。柏木博氏と参加者の情報によれば、鉄兜はドイツ軍のものであることから、討ち取った敵の生首の代替として鉄兜をとらえることができると言う。

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