社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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資料探索法 大津真作・森田三郎・北原恵・阿部真大

 本稿で「資料」という言葉は、一般的に何かを調べたり、証明したりする目的を達成するために役立つ参考情報全般を意味する。ただし、すでに報告書などにまとめられている既存の情報は含めるが、ここではその目的のためにアンケート法やインタビュー、あるいは参与観察などを用いて、あとから得られる情報は含めない。つまり、社会調査の企画を立てた段階で、すでに文字、音声、映像等の形で存在している既存情報を、資料探索の対象としたい。具体的に言うと、書籍や新聞、雑誌、チラシ広告などの公的な活字媒体、役所や企業の文書から個人的な日記や家計簿、商店の看板や電車のつり広告、家庭にあるアルバム写真や絵、ビデオなどの映像情報、さらに先の活字媒体にテレビ、ラジオ、レコードなどを加えた従来のマスコミに掲載されたもの、そしてCD、DVD、インターネットやiモードの携帯電話などニューメディアで扱われる文字情報、音声情報、映像情報、もしくはそれらのミックスした情報のことである。

 現在の私たちを取り巻く情報環境は、10年前と比べても大きく様変わりしている。そのもっとも大きいものは、インターネットを通して得られる情報が、著しく増えたことであろう。日々のニュースや交通情報や天気、衣食住に関する買い物などに関する日常の生活情報から、従来、図書館でなければ入手できなかった歴史、統計、生物、化学、人文等のあらゆる分野にまたがる学問的情報にいたるまで、家庭の中のパソコンや携帯電話を通して簡単に得られる時代となった。当然ながら、そうした電子媒体を通した情報の検索法についても、一項をもうけてあつかう。図書館自体も、電子化の流れの中で、インターネットによる検索ができるところが多くなっている。

 しかし、必要な本や雑誌などを実際に図書館に行って、書棚を探すことの重要性は、決してなくなりはしない。図書館に行くと、書物は共通した分野ごとに集められている。私自身、12年前に全米3位の蔵書数をほこるイリノイ大学の図書館の書庫で、自分の研究にとって非常に重要な論文を発見したのも、実際に書庫の中で目的の書籍を探しているときに見つけた小冊子がきっかけであった。当時、関心のあった農業の機械化というテーマで、ある書物を探しに行ったのであるが、その棚にあった目的の本とは別に、同じ著者の60年前のカリフォルニア農村の調査報告書をたまたま見つけたときには、本当に嬉しかったことを覚えている。その後、芋蔓式に、関連する論文や著書を見つけることが出来、そこをフィールドとして現在も調査を継続している。

 実際に図書館に足を運ぶ。書店や古本屋さんで、書棚から実際に本を手に取ってみる。目的の本をキーワードだけでインターネット検索で探し出すことが出来る時代には、そんなことは無駄なことに思えるかも知れない。しかし、本当に欲しかった情報に巡り会える幸運は、書物の集まっている場所にテーマを持った上で、実際に身を置いて、あれやこれやと手に取ってみる時に訪れるのではないかと私は思う。

 もう一つ、様々な人とのネットワークを活かすことも大切なことだ。たとえば、中村靖彦著『日記が語る日本の農村:松本盆地の畑に八十年』(中公新書1996)では、長野県松本平の農民唐沢正三さん65年の日記を主材料として、昭和初期から平成にいたる日本の農村の変遷を生き生きと描いた書物である。日本の農村も、近年は海外からの自由化要求で揺れ動いてきた。そうした激動の中で、日本の農村を歴史的に振り返る仕事が今まさに必要だと思うけれども、NHK記者であった著者の中村氏は、何か新しい切り口がないかと模索していた。そこで「農村の現場の移り変わりを記録してあるものがあれば、面白い手掛かりになるかもしれないと思い当たった。どこかに長い期間日記をつけている農家はいないだろうか。日本の各地域に詳しい何人かの人に、心当たりを尋ねてみた」。その中の一人に村営の有線テレビ・CATVの活動で全国的に知られた長野県山形村企画財政課長の上條勝氏がいた。彼がCATVの番組の中でお知らせを出して探してくれたのが唐沢正三さんだったのである。依頼してから一ヶ月後のことだった。このように一貫して篤農家であり、長期間日記をつけ続けていて、80歳の高齢者にもかかわらず、元気で話もしっかりできる人物を短期間で探し当てることが出来たのも、まさに中村氏の人的ネットワークの豊富さが活かされたのである。

 では、卒業研究に取り組むにあたって、実際にはどのようにして必要な情報を探したらいいのか。これは、テーマ次第で大きく変わってくるので、一般化することは難しい。したがって、初めに、テーマを具体化して研究を進めていく第一歩としてけっこう便利であるにもかかわらず、案外知られていない百科事典の使い方にふれた後、論文執筆には欠かすことのできない新聞記事や雑誌論文、書籍の調べ方、そしてその他の資料の使い方を順番にみていくことにしよう。そして最後に、資料探索法を主に利用した卒業論文を参考に、具体的な事例を紹介してみたい。


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